私も参加させて頂いています手作りの
詩誌『たぶの木』や、
詩誌『操車場』で作品を発表され、既に何冊ものご詩集を出版されている詩人の
坂井のぶこさんが、新しい
詩集『浜川崎から Ⅱ』(2013年9月、漉林書房、2000円)を出版されます。
今回はこの詩集から、言葉の花をここに咲かせていただき、みつめ感じとらせて頂いたことを記します。
詩人は
「あとがき」でこの詩集に込めたもの、この言葉の花束がどのように生まれたかを、次のように告げ知らせてくれます。
◎ 引用 坂井のぶこ詩集『浜川崎から Ⅱ』。あとがき。 「暮らしの中から滴り落ちた雫のような言葉たち」
「ささやかな幸せと心の平安が欲しい」、「それを得るためにはなんと多くの感情の揺れを経験し、歩き続けなければならないことか。」
「時々まわりの些細な出来事、取り巻いている風景が限りなく愛しく、抱きしめたくなります。陽の光、影、鳥の鳴き声、植物の香り、肌に当たる風、遠くの工場の煙、すべてを言葉にしたくなります。そういうときにすでにわたしは幸せなのかもしれません。」(引用終わり)。
私はこの言葉を読んで、この詩人の現在にとっての詩、詩の生まれ出るところ、詩として書きとめ、伝えようとしている思いが、自由律俳句にとても近しいと感じます。
尾崎放哉(おざきほうさい)や種田山頭火(たねださんとうか)が、伝統俳句の定型、約束事の屋敷から、歩み出し放浪して探しつつうたった心と、木魂しあっていると感じます。
二人の俳人は世捨て人となりましたが、日常生活を捨てきることはできなくても、それは度合いの違いであり、心は世捨て人として生きる道もあります。
坂井さんの言葉は、この地の囚われから飛びたとうとする小鳥たちのよう、とても自由に軽やかに思いのままに跳ね踊る言葉の雫の音楽のようです。
尾崎放哉と種田山頭火と坂井のぶこさんの詩歌は、
宮澤賢治の最晩年のノートに書きとめられた
「雨ニモマケズ」とも深く響きあっていると私は感じます。
この四人に共通しているのは、詩歌にとって、言葉、修辞がすべてといえるほど重要な要素であることを修練し創作した時期を経てわきまえたうえで、そこから歩み出て、
「詩らしさ」「修辞」「定型」を、「捨てた(といえるほどまで最小に抑えた)」言葉の表現、自由律の詩歌を歌っていることです。
私は、言葉の表現力、意味、イメージ、音数・音色・リズム、韻、間、字形、行数、行間、長短を活かそうとし、抒情性、叙事性、リアリズム、虚構性、象徴性、時間性、物語性など多様な可能性を追求する詩歌の創作者を尊敬し、そのような作品の美を愛しているのと同じ強さで、南十字星と北極星のように対極に輝く、
修辞を削ぎ落としたうたを心から愛します。
「多くの感情の揺れを経験し、」「暮らしの中から滴り落ちた雫のような言葉たち」に、私の心は自然に共感してふるえだします。その感動を感じとれる時間は、心の世捨て人でありがちな私も、幸せをみつけている気がします。
以下は、詩集『浜川崎から Ⅱ』から、私がとても好きな、心がいちばんふるえた、自由律を奏でる言葉を、とても自由に摘み取り、ここに咲かせました。詩集で読者それぞれの方の心に近しく微笑みかけてくれる花を見つける幸せを探していただけたらと、思います。
(☆の記号は、区切りを表示するため私がつけました。詩集では鉛筆のかわいい絵文字になっています。)
◎ 引用 坂井のぶこ詩集『浜川崎から Ⅱ』から。かなしいぞ
かなしいぞ
雨がふるのも
風がふくのも
なんだか魂にひびくのだ
かなしいぞ
かなしいぞ
お前の瞳の緑の色が
ピンと張ったヒゲが
わたしもお前も生きている
柔らかい毛にそおっと触る
いつでも今日が最後だぞ
お前の瞳がそういっている
☆
旅にでたいなと
魂がいった
今はだめだよ
と
頭がいった
つまらないなあ
と
魂ちゃんはいった
心はそっぽをむいて
朝顔に水をやっていた
朝顔が咲いたら旅に出た気持ちに
なれるかなあ
☆
私はうたう
うたわずにはいられない
伸びてゆく草
三日月と星
眼に映る美しいものに対して
夏草の香り
土砂降りの雨
猫のシッポ
サボテンの花
オシロイバナの匂い
浜川崎も今は夏になった
この国は今放射能だらけになり
とてつもない重荷を背負わされては
いるのだが
それでもうたわずにはいられない
僅かな命の営みでも
美しさを見出さずにはいられない
☆
夜になると泣く
えーんえーん おーんあーん
うるさいといわれる
考えるんじゃないよといわれる
どうしてこんなにむなしくなるのだろう
暗い道をひとりで歩いてゆく
終りのない悪夢をみている
山沿いの道が頭に浮かんでくる
☆
煌めきはどこから生まれるのだろう
なにもない状態に自分をもどすことからしか
それは生まれては来ない
独りになったとき
心の奥に透き通った月の光や
風の響きが満ちてくる
(詩集、引用終わり)。
次回からは自由律俳句のエッセイに戻り、尾崎放哉と種田山頭火を見つめていきます。
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