「
万葉集 巻十一、巻十二 正述心緒 相聞歌」より
好きな歌を二十首選びました。
*出典『万葉集歌人集成』(著者:中西進、辰巳正明、日吉盛幸、講談社)。
*国歌大観番号を付します。
*出典の原文を記し、続けて( )内にひらがなで記します。
巻十一 二三八一
君が目を見まく欲りしてこの二夜千歳の如く吾は恋ふるかも(きみがめをみまくほりしてこのふたよちとせのごとくわはこふるかも)
二三八二
うち日さす宮路を人は満ち行けどわが思ふ君はただ一人のみ(うちひさすみやぢをひとはみちいけどわがもふきみはただひとりのみ)
二三九二
なかなかに見ざりしよりは相見ては恋しき心まして思ほゆ(なかなかにみざりしよりはあいみてはこほしきこころましておもほゆ)
二四〇二
妹があたり遠く見ゆれば怪しくもわれは恋ふるか逢ふ縁を無み(いもがあたりとほくみゆればあやしくもわれはこふるかあふよしをなみ)
二四一四
恋ふること慰めかねて出で行けば山をも川をも知らず来にけり(こふることなぐさめかねていでいけばやまをもかわをもしらずきにけり)
二五二六
待つらむに到らば妹が嬉しみと笑まむ姿を行きて早見む(まつらむにいたらばいもがうれしみとえまむすがたをいきてはやみむ)
二五五〇
立ちて思ひ居てもそ思ふ紅の赤裳裾引き去にしすがたを(たちてもひいてもそおもふくれないのあかもすそひきいにしすがたを)
二五六四
ぬばたまの妹が黒髪今夜もかわが無き床に靡けて寝らむ(ぬばたまのいもがくろかみこよひもかわがなきとこになびけてぬらむ)
二五六七
相見ては恋慰むと人は言へど見て後にそも恋ひまさりける(あひみてはこひなぐさむとひとはいへどみてのちにそもこひまさりける)
二五七八
朝寝髪われは梳らじ愛しき君が手枕触れてしものを(あさいかみわれはけづらじうつくしききみがたまくらふれてしものを)
二五九二
恋ひ死なむ後は何せむわが命生ける日にこそ見まく欲りすれ(こひしなむのちはなにせむわがいのちいけるひにこそみまくほりすれ)
巻十二二八四一
わが背子が朝明の姿よく見ずて今日の間を恋ひ暮すかも(わがせこがあさけのすがたよくみずてけふのあひだをこひくらすかも)
二八六八
恋ひつつも後もあはむと思へこそ己が命を長く欲りすれ(こひつつものちもあはむとおもへこそおのがいのちをながくほりすれ)
二八六九
今は吾は死なむよ吾妹逢はずして思ひ渡れば安けくもなし(いまはあはしなむよわぎもあはずしておもひわたればやすけくもなし)
二九〇四
恋ひ恋ひて後も逢はむと慰もる心しなくは生きてあらめやも(こひこひてのちもあはむとなぐさもるこころしなくはいきてあらめやも)
二九〇五
いくばくも生けらじ命を恋ひつつそわれは息づく人に知らえず(いくばくもいけらじいのちをこひつつそわれはいきづくひとにしらえず)
二九一四
愛しと思ふ吾妹を夢に見て起きて探るに無きがさぶしさ(うつくしとおもふわぎもをいめにみておきてさぐるになきがさぶしさ)
二九二二
夕さらば君に逢はむと思へこそ日の暮るらくも嬉しかりけれ(ゆふさらばきみにあはむとおもへこそひのくるらくもうれしかりけれ)
二九三一
思ひつつをれば苦しもぬばたまの夜にならばわれこそ行かめ(おもひつつをればくるしもぬばたまのゆふべにならばわれこそいかめ)
二九三六
今は吾は死なむよわが背恋すれば一夜一日も安けくも無し(いまはあはしなむよわがせこひすればひとよひとひもやすけくもなし)
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