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小熊秀雄の詩。真実は孤独を破り時を越え。

 『日本の詩歌26 近代詩集』(中央公論社、1979年)を読んでいます。これまで出会う機会のなかった詩人の良い詩が心に響きだすのを感じるとき、私は嬉しくなります。

 今回は、小熊秀雄(おぐまひでお、1901年~1940年)の詩をみつめ考えます。(彼の作品はインターネットの青空文庫にも豊富に掲載されていて多様な作品を読むことができます。)

 前回紹介した岡本潤はアナーキーな表現者として生命力旺盛で長命でしたが、小熊秀雄は「しゃべりまくる」詩人であってもプロレタリア運動を押し進めようとした直進するような詩人です。良し悪しでなく、もって生まれた資質です。
 また前々回の大木惇夫が戦時に戦地で生き延びた体験詩や軍歌をつくり盛んに書きまくっていたとき、小熊秀雄は弾圧され「黙らされ」苦しみつつ病気に倒れ短い生涯を終えたこと、極端に違う生涯を思わずにいられません。

 この本には優れた詩の読解者である伊藤信吉が彼の詩を選び出しています。私は「蹄鉄屋(ていてつや)の歌」、「馬の胴体の中で考えていたい」、そして紹介する次の詩が特に心に響きました。
「蹄鉄屋(ていてつや)の歌」は彼が「しゃべりまくった」時期の独特な個性ひかる詩です。
「馬の胴体の中で考えていたい」は戦時下の言論統制と弾圧が激しくなり発表の場を奪われた時期の嘆きの詩です。
 そして次の歌は、苦しみのなか希望を絶たれそうなときに、それでも、自分に言い聞かせながら絞り出した叫びのような詩です。


  馬車の出発の歌
               小熊秀雄


仮りに暗黒が
永遠に地球をとらえていようとも
権利はいつも
目覚めているだろう、

薔薇(ばら)は闇(やみ)の中で
まっくろに見えるだけだ、
もし陽(ひ)がいっぺんに射(さ)したら
薔薇色であったことを証明するだろう
嘆きと苦しみは我々のもので
あの人々のものではない
まして喜びや感動がどうして
あの人々のものといえるだろう、
私は暗黒を知っているから
その向うに明るみの
あることも信じている
君よ、拳を打ちつけて
火を求めるような努力にさえも
大きな意義をかんじてくれ

幾千の声は
くらがりのなかで叫んでいる
空気はふるえ
窓の在(あ)りかを知る、
そこから糸口のように
光りと勝利をひきだすことができる

徒(いたず)らに薔薇の傍らにあって
沈黙をしているな
行為こそ希望の代名詞だ
君の感情は立派なムコだ
花嫁を迎えるため
馬車を支度しろ
いますぐ出発しろ
らっぱを突撃的に
鞭(むち)を苦しそうに
わだちの歌を高く鳴らせ。


 暗闇の中にある薔薇についての詩句は、とても美しいと思います。
 詩が進むにつれて、言葉が直線的になり、命令調になっているのは、彼がどうしようもない暗闇におかれ、絶望の淵にいるからです。そのようなとき人間は、短く直接的なきつく硬い叫びを絞り出し、生きていることを自分で確かめ、それでも生きろと自分に言い聞かせるのではないでしょうか。孤独のどん底で見えない人間に向けて絞り出す声。
 その声にとって、詩として整っているか非がなく優れているかどうかという評価はもうどうでもいいものです。肉声の真実は、歌となり、人の心に届き、響きます。

 小熊秀雄は戦争の終わりを見ずに亡くなりました。戦争は終わり、戦争に踊り庶民を虐げ戦火に殺した為政者も消えました。今もなお、小熊秀雄の詩の真実は、孤独を破り時を越え人の心に出会い、生きています。

 今回は、私自身がとても苦しいとき自分に言い聞かせ自分を励まし書いた詩を木魂させます。
  詩「瞳のおくに」(高畑耕治『死と生の交わり』所収)。

 次回は関西弁の心優しい詩人をみつめます。


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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