『日本の詩歌26 近代詩集』(中央公論社、1979年、解説・伊藤信吉)を読んでいます。これまで出会う機会のなかった良い詩を見つけると私は嬉しくなります。
今回は、
白鳥省吾(しろとりせいご 1890年~1973年)、
宮城県生まれの詩人です。この詩人の名は知っていましたが、作品はまだ読んだことがありませんでした。
伊藤信吉の解説によると、
民衆詩派の一人と称された彼は、
農民詩、戦争批判の詩を書いています。
「詩人・白鳥省吾を研究する会のホームページ」を今回見つけました、とても充実しています。
そのHP中の次の記事で彼の反戦詩の代表作といわれる
詩「殺戮の殿堂」を読むことができ、戦争について考えさせられます。
靖国神社の軍事博物館・遊就館を直視した優れた作品だと私は思います。
白鳥省吾物語 第二部会報十五号、二、民衆派誕生 大正七年、(二)「殺戮の殿堂」 このHPの記事にはまた、民衆詩派の口語自由詩が、彼とほぼ同年代の
北原白秋から「行分け散文」と批評されたことが書かれていました。
このことについて、私の考えを記します。
私は、詩は
一人の人間の心、個性を通して現れ出る普遍なのだから、まず、「派」として異なる個性を枠に閉じ込めくくるのは、交友関係を示すものさしとしての便宜にはなっても、作品の評価においては、意味がないと考えています。
次に、
「行分け散文」は日本語の口語自由詩の作品ほとんど全てに当てはまる評価です。
もともと散文的な口語を用いていることを自覚して、韻文的な響きをどのようにどれだけ表しうるかに、作者としての天性・技量・能力を注ぎ込み見えない苦闘をしているから詩は芸術だといえるけれども、口語自由詩の韻文的な性質はとても微かなものです。
そして、より
社会的な批評性のある詩、農民詩、反戦詩としての性格があることと、作品がより「行分け散文」であるかどうかの間に、直結する因果関係はありません。象徴的、幻想的な主題の作品でも、主題のない言語至上的な作品でも、口語自由詩の大部分は「行分け散文」です。
だから「民衆詩派の詩、社会的な批評性のある詩、農民詩、反戦詩」は「行分け散文」という考えは、批評とはいえません。
詩の、言語表現としての美しさを私は愛しますが、同等に、主題の切実さ・書かずにはいられない核があることに私は感動します。良い詩にはこの両面が切り離されないほど
緊密に結びつき一体となって織り込まれています。
北原白秋は前者、言語表現そのもの、言葉の音楽面に多彩な才能を現した詩人です。一方で後者の主題については弱くて空疎な表現も多くしています。
私にとって彼は巧い詩人だけれど作品に感動することが少ないから、学ぶ人ではあっても、好きな敬愛する詩人とはいえません。
この本に掲載されている白鳥省吾の5
作品「耕地を失ふ日」、「死者の子守唄」、「夕景」、「遠い日」、「比喩」のうち、次の「死者の子守唄」が、上述した言葉の織物として優れた作品だと私は感じます。
宮城県生まれの詩人。この作品はお盆の鎮魂の花。
東日本大震災で亡くなられたひとりひとりの方にとっても、
鎮魂の花でありますように。
死者の子守唄
白鳥省吾 荒磯(ありそ)の疎(まば)らな松林のなかに
いくつかの墓が並ぶ
墓のほとりに盆火がとろとろと燃え
墓の面を照らしてゐる
星空の下に
波の音に慄(ふ)るへて。
この世から去れる祖先や知人の墓のまへに
潮風にも消されず火は静かに燃える
海辺に育ち海辺に死に
或は海に溺(おぼ)れ死んだ人々の墓
その死の眠にも絶えず通ふ荒磯のひびき
人間のさびしさ。
永遠の波のさびしさ
これらの墓の底に眠るなつかしい素裸の魂も波の音に慄へる
そして大地を揺籃として人々は寂しく眠る
それにしても海は何といふ雄々しい子守唄だ。
生ける者にはまだしも
死せる者の眠には余りに力強い響きではないか
然し海潮の高鳴りに遠く耳を澄ませば
その底に幽(かす)かに
優しい子守唄が咽(むせ)びきこえる。
今回は最後に、この詩と響きあう私の詩、
戦争を厭う海と鎮魂の詩を木魂させます。
詩「たこ」(高畑耕治詩集『海にゆれる』所収)。 ☆ お知らせ ☆
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3月11日、
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