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高田敏子の詩(二)。呼びあう、こころ。

 明治時代以降の新体詩、近代詩をみつめてきましたが、中公文庫の『日本の詩歌』シリーズや、筑摩書房の『現代日本文学大系93 現代詩集』は、女性詩人とその詩をほんのわずかしか取り上げていませんでした。今回からは女性詩人のゆたかな詩の森に私なりに歩んでゆき、聴き取れた声に木魂する詩想を記していきます。

最初の詩人は高田敏子(たかだとしこ、1914年-1989年)です。彼女の詩について「高田敏子の詩。恋うた、藤の花。」でみつめ、ひと目ぼれし、とても好きになったので、『高田敏子詩集』(新川和江編、1997年、花神社)を読みました。
 「藤の花」、「別の名」は、読み返すたび思いの深まる美しい愛の詩、「花」は凝縮した露のような愛の短唱、「雪の下」は老いてからの愛を見つめた詩。この愛の詩人の言葉が素直に心をうちます。

 彼女の詩を読むと、人を愛する気持ちは異性にとどまらず、深くいのちを感じとる思いに通じていることを感じてしまいます。
 子ども、こころ、いのちを、優しい言葉で歌った詩を読むと、心があたたかくなり、ひとを好きになれる気がします。そんな良い詩がゆたかに輝いています。「子どもによせるソネット」、「春の日」、「窓の下」、「どろんこ」、「水のこころ」、「小さな靴」、「母の手」、「電車の中」、「露の玉」、「雨の日」、「電車の中」、「星空」。どれも好きだな、いいなと感じてみんな紹介したくなる詩です。

 そんな中から一篇を。初出は詩集『月曜日の詩集』です。。

  呼びごえ
        高田敏子


まちかどや 公園などで
よく耳にすることば
「おかあさァーん」
思わずふりむいてしまうのは
私だけではないだろう

おばあさんは思いだす
遠い戦地でなくなった息子のこと
若い母親は
乳房がきゅっと張ってくるのを感じる

 そのころ
 るすばんの子どもたちも
 呼んでいるにちがいない
 遊びあきた庭や
 食卓のまえでこっそりと
 「お か あ さ ん」

母と子は
いつも心のどこかで呼びあっている
若葉がきらりと光ったり
ゆれたりするのは
やさしい心が いつも
空の下を渡っているからです

 二連のさりげない詩行は、この詩人が生き抜いてきた時間へのまなざしと、感受性の深さを響かせています。
三連で、こども心に鮮やかな場面の展開ができるのも、本当の詩心ある詩人だからです。最終行を優しく丁寧な言葉で結んでいるところにも、伝えたい気持ち、想いを、そっと手渡すような、個性が現れています。
 やさしい心を思いださせてくれる、とても良い詩だと思います。

 書きながら読み返していると、心がゆれて、木魂が揺り起こされます。添えてみたくなった私の詩を。
  詩「星の乳房をくちびるに」(高畑耕治『詩集 こころうたこころ絵ほん』所収)。

次回もこころゆたかな美しいこの詩人の、ちがう横顔を見つめます。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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