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戦争を厭う歌。『日本歌唱集』(五)

 『日本の詩歌 別巻 日本歌唱集』(1974年、中公文庫)を読み、歌と詩について考えてきました。

 前回は富国強兵のスローガンで明治政府が押し進めた戦争とその時代の歌を考えました。その後日本は、日清戦争(1894年明治27年)、日露戦争(1904年明治37年)、第1次世界大戦(1914年大正3年~1918年)、第2次世界大戦(1937年昭和12年~1945年)と絶え間ない戦争の時代に突入しました。

 戦争だらけの時代に多くの軍歌、軍隊歌謡が作られ、歌われました。歌詞を読んで深く考えさせられる歌から、今回は特に反戦の思い、戦争を厭(いと)う思いが響く歌を引用し考えます。

  ラッパ節   伝添田唖蝉坊 1900年明治33年(歌詞3番、4番)

名誉名誉とおだてあげ
大切な伜(せがれ)をむざむざと
砲(つつ)の餌食(えじき)に誰がした
もとの伜にして返せ トコトットトットトットトット

子供の玩具(おもちゃ)じゃあるまいし
金鵄勲章(きんしくんしょう)や金平糖(こんぺいとう)
胸につるして得意顔
およし男がさがります トコトットトットトットトット

 ひろく歌われた「戦友」には、戦争を強制された庶民の悲しみと嘆きがにじんでいます。反戦の歌ではなくても、厭戦、戦いを厭う率直な心を聞き取りたいと私は思います。
 ただそのとき同時に、この国の庶民だけでなく、相手国の庶民の悲しみと嘆きを思う心を喪ってはいけない、為政者に奪われてはならないと思います。

  戦友   真下飛泉 1905年明治38年(1番、11番、12番)

ここは御国を何百里 離れて遠き満州の
赤い夕日に照らされて 友は野末の石の下

肩を抱いては口ぐせに どうせ命はないものよ
死んだら骨(こつ)を頼むぞと 言いかわしたる二人仲(なか)

思いもよらず我一人(われひとり) 不思議に命ながらえて
赤い夕日の満州に 友の塚穴(つかあな)掘ろうとは

 次の歌は、幼い者の悲しみ、厭戦の意思を、短い歌詞に込めよく表現していると私は思います。

  もずが枯木で   サトウ・ハチロー 1935年昭和10年(歌詞2番、3番)

みんな去年と同じだよ
けれど足(た)んねえものがある
兄(あん)さの薪(まき)割る音がねえ
ばっさり薪わる音がねえ

兄さは満州へいっただよ
鉄砲が涙で光っただ
もずよ寒くも鳴くでねえ
兄さはもっと寒いだぞ

 『歌唱集』を通して歌と詩をみつめてきましたが、最後に与謝野晶子の詩を引用します。読み返してみて、やはり思いの深さを言葉とする表現力の高さと強さを感じます。
 作曲者の吉田隆子さんが戦時中に、この言葉だけであっても優れている詩に曲をつけることを構想し敗戦後の1949年昭和24年に発表されたと紹介されています。
 その曲を私は知らず、また独立して形作られた言葉の詩に曲をつけることは、とても難しいことだと思います。でも、この言葉を歌として伝えたいと戦争のさなかに考えたひとりの女性の心に、深い共感の思いを抱かずにはいられません。

 詩と歌が、偽りのない心を伝え合うもの、願いをささえ励ます大切なものとして響き続けることを、私は願ってやみません。

  君死にたもうことなかれ   与謝野晶子

ああおとうとよ 君を泣く
君死にたもうことなかれ
末に生れし君なれば
親のなさけはまさりしも
親は刄(やいば)をにぎらせて
人を殺せと教えしや
人を殺して死ねよとて
二十四までを育てしや。

堺(さかい)の街のあきびとの
旧家をほこるあるじにて、
親の名を継ぐ君なれば、
君死にたもうことなかれ。
旅順の城はほろぶとも、
ほろびずとても 何事ぞ
君は知らじな あきびとの
家のおきてに無かりけり

君死にたもうことなかれ
すめらみことは、戦ひに
おおみづからは出でまさね
かたみに人の血を流し
獣(けもの)の道に死ねよとは
死ぬるを人のほまれとは
大みこころの深ければ
もとよりいかで思(おぼ)されん

ああおとうとよ 戦いに
君死にたもうことなかれ
過ぎにし秋を父ぎみに
おくれたまえる母ぎみは
なげきの中に いたましく
わが子を召され 家を守(も)り
安しと聞ける大御代(おおみよ)も
母のしら髪(が)は増さりぬる

暖簾(のれん)のかげに伏して泣く
あえかにわかき新妻(にいづま)を
君忘るるや 思えるや
十月(とつき)も添わで別れたる
少女(おとめ)ごころを思いみよ
この世ひとりの君ならで
ああまた誰を頼むべき
君死にたもうことなかれ


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 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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