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小林一茶。童心。俳句の調べ(六)。

 『日本の古典をよむ⑳ おくのほそ道 芭蕉・蕪村・一茶名句集』(2008年、小学館)から、小林一茶(こばやし・いっさ、1763~1827年)の俳句を前回に続き、見つめます。

 注解者は、丸山一彦(まるやま・かずひこ、宇都宮大学名誉教授)です。一茶の人間性への共感のうえで、音調についても記されていてよいと感じます。

 以下、俳句の調べについての注解がある句を中心に選び、私が好きな句を加えました。注解者の言葉の引用は、注解引用◎、の後に記します。私の言葉は☆印の後に印します。


  我と来て遊べや親のない雀(われときてあそべやおやのないすずめ)

注解引用◎一茶は三歳で母に死別し、祖母の手で育てられたが、八歳のときに継母を迎え、それより継子としての不幸な日々が始まった。
 ☆ 親のない雀に遊ぼうと話しかけられる一茶の人間性は、詩心そのものだと思います。とても好きな句です。


  夏山や一足づゝに海見ゆる(なつやまやひとあしづつにうみみゆる)

注解引用◎「一足づゝに海見ゆる」には、ひと足ごとにせりあがってくる海への新鮮な驚きがある。
 ☆ 注解の通り、新鮮な驚き、感動が詩歌であることを響かせ伝えてくれるような歌です。山の坂道を歩む一歩ごとに見え拡がってくる海への期待と喜び、私自身の思い出とも重なり、その場にいるような臨場感があります。
 夏山や「nAtuyAmAyA」の母音「アA」音の明るい響き、「づつZUTU」には一歩一歩進む響き、「海見ゆるUMIMIYURU」の母音「ウU」音と子音M音Y音の柔らかな懐かしい響き、調べも美しいと感じます。


  大の字に寝て涼しさよ淋しさよ(だいのじにねてすずしさよさみしさよ)

注解引用◎中七以下は二語を併置しただけで、ずいぶん思い切った表現であるが、詠嘆の「よ」が巧まずして脚韻を踏み、しかも下五にすえた「淋しさ」が一句全体に響き返って惻々(そくそく)としたわびしさを伝えてくる。
 ☆ 優れた注解だと感じます。「涼しさよ淋しさよ」は、加えて子音S音Z音の息を細くかすれて吐き出す音の連続が、語の意味と合っていて、調べを通しても強め感じとらせます。「SuZuSiSayo SabiSiSayo」。


  人来たら蛙となれよ冷し瓜(ひときたらかへるとなれよひやしうり)

注解引用◎この童心の世界は一茶の特色の一つ(後略)。
 ☆ 冷やし瓜の縞模様が、カエルの背の模様そっくりなので、食べられないようにカエルに化けな、と冷やし瓜と話す一茶には、童話に通じる、童心があっていいなと感じます。雀と話し瓜と話す、彼は尊敬できる詩人です。


  りんりんと凧上りけり青田原(りんりんとたこあがりけりあをたはら)

注解引用◎「りんりん」という音調がこころよく、農村の充実した気分が、引きしまった声調のなかに詠みとられている。
 ☆ 「りんRIN」の繰り返しと、「りRI」が四回響いていることが調べに快さを生んでいます。子音Rは音楽的な流動性を孕み感じさせる音です。ラRa、リRi、ルRu、レRe、ロRo、このどの音にも、私は音楽を感じます。そして、「りrI」に含まれる母音の「イI」が、「りんりんrInrIn」「りけりrIkerI」、声調を引き締めています。


  ざぶざぶと白壁洗ふわか葉哉(ざぶざぶとしらかべあらふわかばかな)

注解引用◎「ざぶざぶ」という重い音感の反覆によって、若葉の量感を十分に感じさせる。白壁と新緑との色彩の対照も鮮明で、「洗ふ」という語もよくはたらいている。
 ☆ 「zAbUzAbUto sirAkAbeArAU wAkAbAkAnA」。全体の主調音は、母音「アA」音で、白壁、若葉の明るさを奏でています。また母音「アA」音と、遅れて顔をのぞかせる「ウU」音が、「洗う」イメージの水(風)の波だつ動きのように浮き沈みしています。


蟻の道雲の峰よりつゞきけん(ありのみちくものみねよりつづきけん)

注解引用◎シネスコープの一画面でも見るような、奇妙な立体感がある。この特異な感覚的把握と大胆な表現(後略)。
 ☆大きな情景を十七字に孕んでいて、奥行きと広がりのある映像が心に映し出される思いがします。遥か遠くの道の向こうの雲から並んで歩いてくるアリたちに対しても、共感、がんばれという気持ちが響いているのは一茶ならではの良さです。「けんKEN」という言葉の弾む強さが、その詩心を高めています。イメージの中心にある「道MIchi」と「峰Mine」は、「みMI」音でやわらかに響き合っています。

 次回も、小林一茶の俳句を見つめます。

出典:『日本の古典をよむ⑳ おくのほそ道 芭蕉・蕪村・一茶名句集』(2008年、小学館) 
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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