ツイートした詩想の、落穂拾いです。
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「源氏物語」の「若菜」で千年ほど前の猫の声を紫式部が教えてくれました。
「ねうねう、といとらうたげに鳴けば、」
(ねうねう、ととてもかわいく鳴けば、)
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わたし個人の好みにすぎないかもしれませんが、「源氏物語」はきらびやかな栄華のめくるめく前半から、後半へ、宇治十帖へと流れてゆくほど、人間のこころと感受性の川の流れが、広がり深まってゆくように、秋の夕空のように、美しく感じます。
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「源氏物語」の「柏木」の巻は、とてもこころに響きました。
紫式部もこの巻では、「あはれ」という言葉、(「ああ」としかいえない)こころ深く揺らぎもれでる言葉を、繰り返し使っていました。
「あはれ」としか、伝えようがない、瞬間を、感情、こころを表現したかったのだと感じました。
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「源氏物語」、「御法(みのり)」、「幻」、巻名だけの「雲隠(くもがくれ)」と読み進めましたが、紫の上は少女のときから、こころもすがたもとても美しい優しい女性として描かれ物語に生きているので、亡くなった想いと姿が悲しく、永遠の喪にふくしているような気持ちになります。
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「源氏物語」の、「橋姫」の巻からはじまる宇治十帖、川と山のほとりでくりひろげられる物語世界を歩み入りました。ゆっくり感じとっていきたいと思います。宗教心をこころに宿す薫に親しみを感じつつ、川音の流れる物語の時間をさまよいます。大君、中の君に惹かれ、浮舟を恋しく想い。
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「源氏物語」の宇治十帖の「橋姫」を読み、読み継がれてきた時間に耐える物語の深み、すごみをあらためて思います。「柏木」の巻から二十数年伏流し、消え去るかもしれなかった柏木の遺文が薫の眼差しに不意に浮かびあがるとき、言葉と文字による文学の創造でこそ伝えられる真実があると教えられます。
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源氏物語、「浮舟」の巻を読むと、海のまえ星空のもとただ無言でいるしかなくなるような、波の音や星の調べのような、悲しい痛みの励ましのような、不思議な静かな美しいものを、人間の言葉の表現の極みの文学は伝えてくれると、教えられます。
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こころの海、こころの星空、人間の悲しく痛い、けれどもゆたかさと感じるしかないような、はてもなくあてどもなく浮かびさまよう小舟のような、生きものだから人だからこそ感じられる、思いです。
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「源氏物語」蜻蛉(かげろふ)の巻から。
ありと見て手にはとられず見ればまた
ゆくへもしらず消えし蜻蛉
あるかなきかの
(新潮日本古典集成」校注:石田穣二・清水好子)
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「源氏物語」手習の巻から。
かきくらす野山の雪をながめても
ふりにしことぞ今日も悲しき
(新潮日本古典集成」校注:石田穣二・清水好子)
涙にあらわれる
涙ながれるのはまだひとであるのあかしと浮舟とたゆたい教えられます。
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「源氏物語」夢浮橋(ゆめのうきはし)
はかなくふっと結末もなく消えみえなくなる物語のゆくえは、終わることなく、いま、この時にまで、はるかにかけられた橋のよう。千年の時をこえ、橋は途絶えずかかっている、かけられている夢の橋を、いま、わたっていると。
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