式子内親王の美しく愛(かな)しい、私が好きな歌をここに咲かせます。彼女の思いのどうしようもない切実さは言魂となって心を打ちます。余計な説明はいらない歌なので、耳を澄ませ惹かれるままに、その
韻律の美しさを☆印の後に記しました。(カッコ内数字は出典の通し番号と勅撰入首歌番号です)。
式子内親王の歌は、心の感性で選びつつ紡がれた
言葉の響きに、意味と表象と音象が渾然と自然に融け、美しい調べを今も奏でています、時を超えて。
はかなくてすぎにしかたをかぞふれば花に物思ふ春ぞへにける (12、新古今集春下101)
☆Haの頭韻、母音aに歌が浮かび流れるよう、下句でu音の脚韻で心はうちを向き閉じる。
つかのまのやみのうつつもまだしらず夢よりゆめにまよひぬる哉(78、続拾遺集恋三914)
☆上句はtsu、下句はyuを主に、母音u音の情感に漂う。
恋ひ恋ひてそなたになびく煙あらばいひしちぎりのはてとながめよ(85、新後撰集恋四1118)
☆冒頭のkoikoite印象深く、上句は母音a音で昇り、四句で母音i音に転調し心を締めた後、主調音a音に戻る。
うき雲の風にまかする大空の行くへもしらぬはてぞ悲しき (98)
☆初句u音と、四句yu音の対韻、初句三句no脚韻、末句にかけi音で心が締り、kiが初句と響き残る。
はじめなき夢を夢ともしらずしてこの終はりにや覚めはてぬべき (99)
☆yumeをyumetomoの重韻が印象深く、四句o音に転調konoo、初句と末句のha音と脚韻ki音が響き合う。
今はとて影をかくさんゆふべにもわれをばおくれ山のはの月(153、玉葉集雑五2493)
☆上句Ka音の重韻、yuuで沈んで、下句は母音a音とo音が畳まれ奏でる韻律、止めのtsukiが響く。
哀れ哀れ思へばかなしつひの果て忍ぶべき人たれとなき身を (197)
☆awareaware印象深く、hateと脚韻、四句Shiで転調i音を主に心締まっていく。
ながめつる今日はむかしになりぬとも軒ばの梅は我をわするな(209、新古今集春上52)
☆N音の、Na、noと、u音が主調で、心の憂さのこもる、末句WarewoWasurunaの響きが強い。
桐の葉もふみわけがたく成りにけりかならず人をまつとなけれど(255、新古今集秋下534)
☆k音とi音の、乾いた、冷たい、響きの流れ。
見るままに冬は来にけり鴨のゐる入江のみぎはうすごほりつつ(259、新古今集冬638)
☆i音の冷たさ透明さに、g音の濁りが対比して印象強い、末句はu音で凍り閉じる。
身にしむは庭火の影もさえのぼる霜夜(しもよ)の星のあけがたの空 (266)
☆母音i音と子音s音で身の締まる、三句頭Sa と五句頭Aは呼応し上がる感、noのリズムは快い。
天津(あまつ)風こほりをわたる冬の夜(よ)のをとめの袖をみがく月かげ(267、新勅撰集雑一1113)
☆二句から四句はo音の重韻、初句Ama‐tsukazeと五句migaku‐tsukikageが響き合っている。
しるべせよ跡なき波にこぐ船の行くへもしらぬ八重のしほ風(272、新古今集恋一1074)
☆初句の響き強く、yoと三句oの脚韻は息の切れ目。YaeとKazeの対韻が見えない風の音のよう。
わすれてはうちなげかるるゆふべかなわれのみしりてすぐる月日を(320、新古今集恋一1035)
☆初句と四句のWaの頭韻に最強音の波の高まり、三句と五句にu音の波が沈んでゆく。
玉の緒よたえなばたえねながらへばしのぶる事のよわりもぞする(321、新古今集恋一1034、百人一首)
☆初句、二句のTaの頭韻、重韻が強く貫く。四句shiで転調、母音o音u音で消音してゆく。
ほととぎすその神山の旅まくらほのかたらひし空ぞわすれぬ(324、新古今雑上1484)
☆初句と四句のHoの頭韻の懐かしさが歌全体の響き。母音はo音の重韻が主の音色。
君ゆゑといふ名はたてじ消えはてむ夜半(よは)の煙のすゑまでもみよ(338、続後撰集恋一660)
☆初句が強く三句のKi音と頭韻、四句のk音、五句末のmi-yoとも響き合う。
君ゆゑやはじめも果てもかぎりなきうき世をめぐる身とも成りなん(370、新千載集恋一1034)
☆初句が強くKiは五句Miと響きあう、二句三句は母音a音の畳韻、四句でu音o音の転調。
生きてよもあすまで人はつらからじこの夕暮をとはばとへかし(379、新古今集恋四1329)
☆初句頭のiと三句末ji、五句末shiに強さ、意志の共鳴。四句から母音はo音主の音色に転調。
かぎりなきふかきわかれのかなしさはおもふたもともいろかはりけり (383)
☆初句と三句のkaの押韻とkaとkiの流れ、四句でo音に転調、五句のkawaにリフレインが響く。
出典:
『式子内親王全歌集-改訂版-』(錦仁編、1987年、桜楓社)。
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