敬愛する歌人、
式子内親王(しょくしないしんのう)の詩魂を、
赤羽 淑(あかばね しゅく)ノートルダム清心女子大学名誉教授の二つの論文「式子内親王における詩的空間」と「式子内親王の歌における時間の表現」を通して、感じとっています。
今回も前回に続き、論文
「式子内親王の歌における時間の表現」に呼び覚まされた私の詩想を記します。
◎以下、出典からの引用のまとまりごとに続けて、☆記号の後に私が呼び起こされた詩想を記していきます。 和歌の後にある作品番号は
『式子内親王全歌集』(錦仁編、1982年、桜楓社)のものです。
(和歌の現代仮名遣いでの読みを私が<>で加え、読みやすくするため改行を増やしています)。
◎出典からの引用1 五
孤独な詩人は想念の世界で人を恋い、その思いを進展させている。それを忘れて、夕べになると人が待たれ、待つ人が来ないことが嘆かれる。そんな自分にふと気づいて
わすれてはうちなげかるるゆふべかなわれのみしりてすぐる月日を 320(新古今・恋一 一〇三五)
<わすれては うちなげかるる ゆうべかな われのみしりて すぐるつきひを>
と歌うのである。内的時間の持続と外的進行の時間の跛行(はこう)に気がつくのは夕べの時である。夕べは人を待ち、人の訪れる時刻である。伝統的なこの習慣が作者を現実の意識に引き戻す。そして歌うことによって内と外とのバランスをとるのである。(出典引用1終わり)
☆想念の世界で人を恋い 式子内親王の恋の歌二首から紡ぎだされた、赤羽淑のこの五章の文章は、とても魅力的で、心に沁みるような想いがします。式子内親王の想いに、感情移入し、その人となって心のうちを告白しているかのようです。
「孤独な詩人は想念の世界で人を恋い、その思いを進展させ」、私もそのような人ですので、そうだと思い、
「それを忘れて、夕べになると人が待たれ、待つ人が来ないことが嘆かれ」、そうだと感じ、「そんな自分にふと気づいて」「歌うのである。」、そうだ、私もまたそのように歌う、と感じます。
「そして歌うことによって内と外とのバランスをとるのである。」、私もそのように生きています、式子内親王もこのように、歌い、生きたのだと、共感を深めずにはいられません。
◎出典からの引用2 たそがれの荻の葉風にも人が来たのではないかと驚く。
たそがれの荻の葉風にこの比のとはぬならひをうちわすれつつ 186
<たそがれの おぎのはかぜに このごろの とわぬならいを うちわすれつつ>
心の中で進行している恋のはずであるのにふと忘れて荻の葉風に驚く、この瞬間は内的時間と外的時間が触れ合う時である。歌うことによって詩人は夢想から覚醒して世界につながることができるのである。そうでなければどこまでも想念の淵に沈み、意識の流れに押し流されてゆくであろう。
たそがれの荻の葉風を聞いて思わず「とはぬならひ」を忘れ、つぎの瞬間に内的時間と外的時間の齟齬(そご)に気がつく。その時、純粋持続の重みを担う過去から解放されるのである。この瞬間に作者は意識の流れから現実に立ち戻り、同時に現実の時間からも抜け出ることができる。(出典引用2終わり)
☆内的時間と外的時間が触れ合う時 赤羽淑は、式子内親王の、恋の歌、悲しみの想いの美しい歌をとおしてここで、詩歌の本質を捉え、気づかせてくれます。
想念の世界で人を恋い、心の中で進行している恋、意識の流れ、詩歌はそのような内的時間と、現実時間、外的時間が、触れ合う時に、その異なる時間の交わりに、生まれでます。多くの場合それは、跛行(はこう)、ずれ、食い違い、齟齬(そご)に気がつくことです。
だからあふれでる想いは悲しみの歌、悲歌です。けれども、人を恋い、愛する内的時間を源としているから、その想いがかなわない、悲しみであってさえ、悲しみであってこそ、愛と悲しみが歌に溶け合ってどこまでもいつまでも響いてゆくことができます。
そのことを赤羽淑は、つぎのように、美しい言葉の結晶にして手渡してくれます。
「歌うことによって詩人は夢想から覚醒して世界につながることができる」。
現実の外的時間に、内的時間、純粋に持続する想念が、たとえ破られたときにさえ、破られることで、歌は生まれる。そのとき、詩人は歌によって、世界につながる。
出典:赤羽淑「式子内親王の歌における時間の表現」『古典研究10』1983年。 次回も、赤羽淑「式子内親王の歌における時間の表現」に呼び覚まされた詩想です。
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