今回は詩人・
久宗睦子(ひさむね・むつこ、1929年生まれ)の詩をみつめます。出典は
『新・日本現代詩文庫99 久宗睦子詩集』(2012年、土曜美術社出版販売)です。
詩は、心に根付き咲く言葉の花です。思いは花の姿として再び生まれることで、薄められ忘れられることなく咲き続ける花となります。久宗さんの詩にはこのことを強く意識させる香りがあります。香りに包まれ、はっと気づく私がいます。
詩誌『馬車』を長く主宰し現在も書き続けていらっしゃるこの詩人は、幅広く多様で豊かな主題と作風をおもちですので、読者の感性と心のありようで好きだと感じる作品はさまざまに異なると思います。久宗さんの心の花の表情すべてを書き記したいけれど難しいので、私がもっとも心うたれる、好きな花たちと、その香りが揺り起こしてくれた詩想を記します。
私を惹きつけて離さない花たちからは、作者が多感な
思春期に戦時下の台湾で、強く心に焼きつけられた記憶、思いが今なお香っています。
過去の出来事を思い起こしとどめる方法には様々あって、たとえば客観視点で事実を捉えようとするルポルタージュという方法があります。また映画や小説は創作ですが、出来事を外から再構成するという点ではこれに通じるものがあります。
一方で、もっとも直接的なのはその時その時間に書きつけられた日記です。そして時を経た後の回想録での叙述です。この本の何箇所かで
『アンネの日記』のアンネ・フランクと同年の生まれであることに運命的なものを感じている作者がいます。
日記を残し亡くなったアンネを想う詩人は、生き続けて、回想録という姿ではなく、詩の花の姿で咲かせました。
昇華。
かけがえのない時、けして忘れられない記憶、思いを、言葉でたち昇る華、いつまでも咲き続ける花の姿にしました。
芸術家であるこの詩人は、
時の流れ、現在と過去を重ね合わせ織りこみ作品に溶かし込みます。彼女の詩には、けして忘れられないその時と、今いる作者との心の交感が愛(かな)しく響いています。
戦時、生と死がすぐ隣りあわせであったあの時、亡くなった人が、その時の姿のまま今、作品を通して生きている、語っている、会話してくれると、私は感じてしまいます。
抱き合うように、慈しみ合うように、離れていた時間はひとつに交り合いながら、生の向こうに去ったひと、亡くなったけれども今も想いにいるひとへ、花を香らせています。
静かな
鎮魂の花。
惨すぎる過去の事実を主題としながら、作品がとても美しいのは、詩人がともに生きていたその人はいつまでも美しく生きていてほしい、そうでなければならないんだという願いそのものを花として香らせているからです。
泥池に咲く蓮の花。
絶望に陥りそうなまなざしに射しこむ願いの光。
私の詩は心の根っこにあるこの想いから芽生え花咲きます。
この詩人の花が根付いている心は、私とつながっている、そう感じられる、だからこれらの美しい花のゆらめきを、みつめずにはいられない、みつめていたい、と私は願います。
私の
ホームページ「愛のうたの絵ほん」の「好きな詩・伝えたい花」に、心から好きな美しい花が咲きました。
久宗睦子の詩「愛河」「月下香幻想」「水族館で」 (クリックでお読み頂けます)。
私も、おとずれ、みつめ、香りにつつまれ、響きあえる想いに生きたい、と願います。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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