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坂井のぶこ詩集『浜川崎から』。 詩って、ほんとはなんだろ?(七)

 標題のテーマ「詩って、ほんとはなんだろ?」について、今回は詩人・坂井のぶこさんの詩集『浜川崎から』(2012年5月、漉林書房)を感じとりながら考えます。
 この詩集は、詩ごとの題名はないので、詩集全体を言葉の花野原とみてもいいと思います。野原から私が好きな心に残る野の花を摘んで花飾りを編み「浜川崎から(抄)」としました。

   ☆ リンク:詩「浜川崎から(抄)」

 既に十冊以上の詩集を出版されている坂井さんの、この詩集の「あとがき」の言葉は、私の心にとても新鮮に響きました。引用します。

   ☆ あとがき
 「去年の一月ごろから一日一篇詩を書き始めました。日記をつけた最後に詩を書くという形でした。どうしてそういうことを始めたのか、考えてみてもはっきりした理由がわかりません。なんとなく成り行きでとしかいいようがないのです。
 何の欲も目的もなく、書きたいことを書きたいように書いてきました。垂れ流しという言葉も頭をかすめたのですが、反面、素直に自分を出せたということで、私にとっては価値のある詩たちです。いままでこんなふうに詩を書いたことはありませんでした。(略)」


① 素朴な詩
 坂井さんは「あとがき」の後の箇所で、この詩集の作品を「素朴な詩」と読んでいらっしゃいます。
これらの言葉は日記の散文とは切り離されて書かれている詩です。その姿はとても素朴で美しいです。
 複雑さと難解さが詩の価値を高めるわけではありません。「現代詩」には、心を素直に表現した詩は価値が劣ったものとして見下すような傲慢さがありますが、頭で捏ね繰り回して難しく作れば良い詩になるわけではないと私は思います。

 まず書きたいことがあり、その詩心にふさわしい言葉を探して詩人は創作します。
 「いままでこんなふうに詩をかいたことはありませんでした。」という素直な告白から、作者自身の驚き、新しい経験の喜びが伝わってきます。
 「素直に自分を出せた」と言えるのはとても素敵なことです。自分の詩心を表現できた詩、心の花が咲いたとき、まず誰よりも作者自身がその花を愛さずにはいられないからです。

 坂井さんは「一日一篇」書いたとさりげなく記されているので、容易に思えますが、これはとても大変なことです。「どうして」「始めたか」わからないという言葉も偽りなく率直だと感じます。
 私は、この詩人にとって<このようにして生み出すための機が熟していた>、だから<朝日のように言葉が降りそそぎ詩となる季節、創作の稔りの日々と時を、詩神から坂井さんは授けられた>のだと感じます。

 なぜ、授けられたのか? 間違いなく確かな一つの答えは、彼女が詩を求め続け書き続けてきたから、詩人の魂、詩人としての誇りを、すり減らさず喪わずに生き続けてきたからだと私は思います。

 この生きざまは容易なようで実はとても困難なことです。詩は美しい芸術だけれども、日常生活の役には殆ど立ちません。日常の便益も物もお金ももたらしてはくれません。感動できる心、鋭敏な感性は、痛みにも敏感です。実益を奪い合う醜悪さや不正にもむき出しのまま晒されます。
 生き辛い経験を潜り抜け耐えながら、それでも壊されない詩心から生まれた言葉は、作者にとって、読者にとって、価値ある美しい詩だと、私は思います。その花を愛してくれる人は必ずいます、時と場所を超えて。

② 詩人は子ども、弱い者
 坂井さんの水彩画スケッチのように優しい詩には金子みすゞと響きあう心を私は感じます。みすゞの詩を坂井さんが朗読するのを聴いたとき、空まで伸びてゆくような澄んだ声が白い雲まで心を運んでくれるようでした。
 この詩集は声の響きの美しさを深く知る詩人の音楽ゆたかな言葉の歌です。作品から子どもの笑い声や泣き声が聞こえてくるような気がします。

 私は、詩人はいつまでも子どもだと思っています。正確に言うと、詩人の心はいつまでも子どもです。
 年齢を重ねても、この宇宙といのちと永遠について、死ぬまで生きている限り、不思議に驚き感じて、繰り返しなぜ?と問いかけてしまう子どもです。子どもは感動し、愛がないと生きられません。その心のままを、言葉の歌にするのが詩人です。坂井さんはまさにこのような、本来の詩人です。

 紹介した詩のなかには、石川啄木の短歌や山之口獏の詩のように、生活苦を綴った詩もあって私は共感します。
 詩人は経済的な便益を生まないことでも子どもと似ています。生活の実益の場面ではあまり役に立たない弱者です。だから弱い者としての痛みや悲しみ、生活の苦しさや喜びを歌えるのだと私は思っています。
 さらにいうと、人間は誰ひとり強くなどありません。人間のいのちはとても脆い、だから詩は人間の心の、魂の歌になりえます。
 坂井さんの詩は、素朴な美しい、人の心の歌だと思います。

 標題のテーマ「詩って、ほんとはなんだろ?」について、個性的で魅力に満ちた詩人と詩集を通して、いろんな表情を見つめてみました。発見、感動を見つけたらまた詩想をお伝えしたいと思います。
 
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』は2012年3月11日イーフェニックスから発売されました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
 ☆ 全国の書店でご注文頂けます。
    発売案内『こころうた こころ絵ほん』
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    詩集 こころうた こころ絵ほん
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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