前回に続き、詩人・
田川紀久雄の
『愛するものへ』(2012年11月、漉林書房)から、私の好きな詩を見つめます。
今回の
詩「愛する人がいます」は最後に置かれている作品です。
田川さんは詩語りで、
宮澤賢治を読み込まれているので自然なことですが、この詩は賢治の
「雨ニモマケズ」と木魂しています。ご自身の生き方を通して紡ぎだせた言葉だから、深く響き合っていると思います。
以前とりあげたアンソロジーのなかに
井上陽水の「ワカンナイ」という歌詞が掲載されていて印象的でした。賢治の「雨ニモマケズ」をパロディ化してワカンナイと歌っています。歌詞そのものは軽いおかしさと機智の表現にすぎなくて良いと感じませんでしたが、たぶん誰も彼もが「雨ニモマケズ」を持ち上げることへの皮肉と醒めた意識は、それはそれで自然だとも、また陽水らしくなく頭でっかちな歌詞だとも感じました。
良いと感じる人がいて、良いと感じない人がいる、それでいいと思います。
「雨ニモマケズ」を読み、口ずさんで、感動し、いいなと感じる心がある、幼い子どもからお年寄りまで、そう感じる人がいるということだけが、この賢治の言葉が人の心に響くいつわりない詩だと教えてくれます。
田川さんは宮澤賢治の詩が好きな読者の一人として、好きだから繰り返し朗読されていることが、詩の木魂する響きで伝わってきました。
愛する人がいます
田川紀久雄風が吹きました
雨が降りました
時々晴天の日もありました
人生とはなかなか思うようにいかないものです
哀しい時は人知れずに涙を流しながら泣きました
楽しい時は
あまり記憶がないので
笑った覚えはありません
人を愛したことはあります
生れてきたことを憎んだこともあります
それなりの経験を積んでここまで生きてこられました
生れたことへの憎しみがあるから
より一層人を愛することを求めてきました
六十の半ばで末期ガンの宣告を受けようとは思ってもみなかった
あなたのいのちは半年も持たないでしょうと
言われても本当のところそれほど実感がわかなかった
あなたのことや
妹のことを思って
ちょっと不安になりましたが
なんとかここまで生きぬいてこられました
土砂降りの中で
多くの人から助けてもらいました
なんと五年間で九冊の詩集を上梓して
それが助けられてきた人たちへの恩返しになっているのか
私にはさっぱりわかりません
詩人として生きることは
社会的には人間失格です
詩語りを目指して生きようとしても
誰の役にもたたないとつくづく感じています
私の心の中をいまなお強風が吹いています
ときどき大粒の雨が降ってきます
あなたのためにも
一日でも長く生きていたいのです
愛がこの世で
野の花のように美しく感じられることを祈りながら……
(二〇一二年五月十七日)
次回も今年出会えた詩集をとおして詩想を記します。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
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イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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