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麻生直子編 『女性たちの現代詩』 

 前回まで詩詩『ラ・メール』の特集を中心に明治以降の女性の詩人の詩をみつめてきました。
 詩は芸術ですので、読者は心の個性とありようにとって「好きか嫌いか」で受けとめ感じとればいいのだと私は思います。
 書き手の詩人にも嗜好、好き嫌いがあって当然ですが、排他的にならずに個性による多様性を認め合ってさえいれば、読者が良いと感じるものを選べるので、詩の豊かさは損なわれずにすむと思います。

 そのように想いつつ並行して読んだアンソロジー『女性たちの現代詩 日本100人選詩集』(麻生直子、2004年、梧桐書院)を今回はとりあげます。
 (ただし、くどくなりますが、これらの選詩集に掲載された詩人が、掲載されていない詩人より良い詩を書く詩人だとは思っていません。良い詩は多くの人が知らない湖畔に美しく咲いています。あまり知られず、まだ知られず、咲いている美しい野の花があります)。

 麻生直子の解説「女性の詩と時代をめぐって」は、江戸時代の俳諧にまでさかのぼって、女性が書いてきた詩を丁寧に伝えてくれます。与謝野晶子たちが歩み出した新しい詩の時代、大正デモクラシー、プロレタリア運動や戦時の報国詩、戦後1945年から90年代まで、時代のなかの女性の詩人の生き方を直視していて深く考えさせられる論考です。

 詩人・麻生直子自身の作品は『日本現代詩文庫・第Ⅱ期① 麻生直子詩集』(1995年、土曜美術社出版販売)で読めます。私は詩「憶えていてください」に心うたれます。1993年北海道南西沖地震の津波による奥尻島の被災者の方々への鎮魂歌です。

 『女性たちの現代詩』の収録詩は、1900年代の後半の、女性詩人の作品です。
 特徴として、編者が主宰されている詩誌「潮流詩派」の特徴でもある社会性・批評性・記録性、そして現代を意識した現代詩が選ばれていると感じます。

 私個人の詩へのこだわりからの思いを自分自身に言い聞かせているまま率直に記しますと、社会性・批評性に共感しつつ、現代詩全般に思うことですが、現代性に捉われるあまり知性に偏り、時代をこえる抒情のゆたかさを削ぎ落としすぎていると感じます。
 そして「現実」「悲惨」を直視することに共感しつつ、夢や願いや憧れ、柔らかな思いでこそ浮かびあがってゆく何か、生きることをそれでも悪くないと伝える何かが、たりないと思います。

 でもここに選ばれているのは一作品だけなので、私が詩の響きに感じ取りたいと願うそれらのことを、他の作品で響かせている詩人がいらっしゃるのを、私がまだ知らないだけかもしれません。詩は、黒い花と白い花を、同時には咲かせられないだけかもしれません。

 ひとりひとりの顔と心が違うのと同じように、詩ほど個性の素顔に近い文学はなく、詩はまとめて評することなどできません。だから好きだと感じた作品の名と詩人を、掲載順に書き記しておきます。
 あくまで私の感性と詩についての考え方、好みによるものにすぎませんが、いいと感じる作品には必ず強い源を感じます。これらの作品をより詳しく紹介できる機会があるかわかりませんが、個々の作品の良さがわからないという人がしいたら、私はその作品だけに光る良さをどこに感じたかを伝えると思います。

 詩「二日月」財部鳥子(たからべ・とりこ、1933年生まれ)。
 詩「六月の乳の風」佐川亜紀(さがわ・あき、1954年生まれ)。
 詩「英語の時間」春木節子(はるき・せつこ、1952年生まれ)。
 詩「ぶどうの季節」水野るり子(みずの・るりこ、1932年生まれ)。
 詩「Patio(中庭)」久宗陸子(ひさむね・むつこ、1929年生まれ)。
 詩「残響」高塚かず子(たかつか・かずこ、1946年生まれ)。
 詩「ゆれる木槿花(ムグンファ)」石川逸子(いしかわ・いつこ、1933年生まれ)。
 詩「若狭内浦の里」司茜(つかさ・あかね、1939年生まれ)。
 詩「山撓(やまたわ)」安英晶(やすえ・あきら、1950年生まれ)。
 詩「丸い地球のうえで」香川紘子(かがわ・ひろこ、1935年生まれ)。
 詩「積み上げて」江口節(えぐち・せつ、1950年生まれ)。
 詩「顔をあらう」北川朱実(きたがわ・あけみ、1952年生まれ)。
 詩「あるキムに」徳弘康代(とくひろ・やすよ、1960年生まれ。
 詩「水の妊婦」江島その美(えじま・そのみ、1944年生まれ)。
 詩「ひも」高沢マキ(たかさわ・まき、1945年生まれ)。
 詩「欲望」山本かずこ(やまもと・かずこ、1952年生まれ)。
 詩「赤ちゃんの子宮」片岡直子(かたおか・なおこ、1961年生まれ)。
 詩「あなたが風に吹かれて立っている時」藍川外内美(あいかわ・となみ、1967年生まれ)。

 詩は作品が本当はすべてだと私は思っていますので、作品のない今回は自分でもさびしく思います。次回はこの本から1篇だけですが作品を通して詩想を記します。
 
 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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