自由律俳句を己の人生に重ねた強烈な個性の俳人、
種田山頭火(たねだ・さんとうか。明治十五年・1882~年昭和十五年・1940年、山口県生まれ)を前回から見つめています。
出典から私の心に特に響いた句を選び、似通うものを感じた句にわけました。「☆放浪をうたう(一)(二)(三)」、「♪音楽的な、調べの歌(一)(二)(三)」、「★戦時の句」の7回になります。
今回は「♪音楽的な、調べの歌(一)」です。一句一句について、◎印の後に私の詩想を記していきます。
♪音楽的な、調べの歌(一) しぐるるやしぐるる山へ歩み入る◎冒頭から「しぐるるや」の六音が繰り返され大きな調べの波を揺り起こしています。二回目の「や」の音は「山やま」2音のうちの1音ですが、種田山頭火は、俳句も詩歌という大きな「うた」のうちに捉えていたので、言葉の音に鋭敏です。私は冒頭の「しぐるるや」に呼び起こされた木魂となって「しぐるるやま」が詩句として生まれたのだと感じます。全体は母音イI音が主調音となり雨のように細く響く音を降らせています。
生死の中の雪ふりしきる◎詩想と音楽が溶け合った美しい句。二つの「の」の音がリズム感を生んでいますが、白い雪の世界にふさわしい音に句全体が染まっています。子音S音と子音K音が主調の母音のイI音と織りなされた「し」と「き」の音が「白い音感」を生み出しています。SeiSINOnakaNO yuKIfurISIKIru。「ゆyu」、「ふfu」、「るru」の音は、雪のような「やわらかな音感」で耳をくすぐります。
この旅、果もない旅のつくつくぼうし◎切れ字の規則を捨てた自由律俳句ですが、この句ではその間を生む効果を読点「、」が印象深く果たしています。「この旅、」を、果てなくひろげ重ねた「果もない旅」は小波、大波のようです。「つく」「つく」も音楽的です。「つくつくぼうし」は、果てないいのちになきうた作者・人間の象徴に高められていると感じます。
歩きつづける彼岸花咲きつづける◎「きつづける」の繰り返しが心に残ります。詩想も、歩む動きにつれ、彼岸花の情景がひろがりつづけて、美しい句です。
すべつてころんで山がひつそり◎「おかしみ」の句。「おかしみ」も人間味ある感情です。前半の激しい小さな動きと、後半の静かなおおきな情景が、「すべって」と「ひっそり」の促音「っ」のある詩句で鮮やかに対比されています。
また逢へた、山茶花も咲いてゐる◎再会の心の明るさ温かみが主調音のアA音にのって心に拡がります。mAtAAetA sAzAnkAmosAiteiru。
「まmAた」、「あAえた」、「さSAざんか」、「さSAいて」の初頭音には、頭韻のような快さがあります。
水音しんじつおちつきました◎水音は「すいおん」「みずおと」「みなおと」のどの読みかわかりません。どう読もうと読者の自由です。後半の「しんじつおちつきました」は平仮名だけの表記のため一音ずつゆっくり読むことになるのと、最後の「ました」という口語の丁寧語が、表現された気持ちをよく表していて、印象深くとても新鮮です。
ひつそりかんとしてぺんぺん草の花ざかり◎「ひっそりかん」の促音「っ」と「かん」の響き、「ぺん」「ぺん」の響き、「はなざかりhAnAzAkAri」の母音アA音が、作者の軽やかな明るい気持ちをよく奏でています。
あざみあざやかなあさのあめあがり◎平仮名ばかりの一音ずつを明示する表記と、音楽的な調べそのもの意識し言葉を選ぶことを、種田山頭火は意識して創作しうたっています。この句は「あ」アA 音の句と呼んでもよいほどの、言葉の音楽の句です。
「AzAmiAzAyAkAnAAsAnoAmeAgAri。16文字16音のうち、12文字12音、4分の3が、母音アA音の花を咲かせています。詩想の、雨上がりのアザミの花が明るく輝きうたっているかのようです。
ひとりきいてゐてきつつき◎母音イI音が主調音で、子音K音と重ねられた「きKI」音と、「つTU」の、いづれも鋭さと強さのある音が、詩想のきつつきの姿、木をつつく音そのものとなり、響き、聞こえてきます。前の歌とは対照的な音ですが、ともに、山頭火の音にたいする鋭敏さをよく教えてくれます。
心の感動を言葉で「うたう」詩歌は、言葉の音楽そのものだと、気づかせてくれて、私は嬉しくなります。
出典『現代句集 現代日本文学大系95』(1973年、筑摩書房) 次回は、種田山頭火の句をみつめる「☆放浪をうたう(二)」です。
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絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
こだまのこだま 動画
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