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菊、白菊。鶏頭。すすき。秋、俳句の花(四)。

 秋の花の名を詠んだ俳句を見つめています。出典は『俳句の花図鑑』(監修:復本一郎、2004年、成美堂出版)です。入門書ですので、花の名にも俳句にも詳しくなくても、美しい写真を眺めながら楽しく読むことができます。
 俳人は季語として花の名をいつも意識するからでしょうか、季節の移ろいに咲く花の姿をとてもよく知っていて素晴らしいなと、私は素直に感じます。

 初秋から順に、出典にあげられたさまざまな俳句から私の心に響いた句を選び、いいなと感じたままの詩想を☆印の後に記します。

 秋の最終回は、三秋の花の名を詠み込んだ俳句です。

● 三秋

  有る程の菊抛(な)げ入れよ棺の中  夏目漱石

☆亡き人との最期の別れの時という、息が詰まる悲しみ感情の強さを、「なげいれよ」という命令形表現で強く響かせています。小説家でありながら漱石は、心、感情を知り、表現できた文学者だと、この句に改めて感じます。

  菊うらら翅(はね)あれば出て飛ばぬなき  篠田悌二郎

☆冒頭の詩句「菊うらら」は、短い表現で、いちめん咲きゆれている菊の姿を想い描かせてくれて、短詩形、俳句表現の力を感じます。
 特定の昆虫を言わずに「はねあれば」と、あらゆる翅ある昆虫をさして、浮かび上がるイメージは読者個々のイメージに委ねていることで、句の世界を自然の空間にまで大きく拡げています。読者は好きな昆虫を、蝶、とんぼ、バッタ、ミツバチなど、咲きゆれる菊の世界を飛び交う姿を自由に思い浮かべてしまいます。

  白菊とわれ月光の底に冴ゆ  桂信子

☆幻想的な世界、美しい抒情の句です。「月光」にふさわしい花「白菊」を選び咲かせた作者の感性の繊細さがこの句の命だと感じます。
 最後の詩句「さゆ」は、意味、イメージのうえだけでなく、その音「SAYU」も、月光と白菊のささやきのように、かすれ、澄み、優しく響きます。

  生けられし鶏頭のなほ静まらぬ  相生垣瓜人

☆花の感情を聴きとったような句です。鶏頭の赤の、わきあがる泉のような生命感を、描き出しています。生け花になりながらも、という場面が浮き立たせる、静と動、死と生の、対比が句に強さをもたらしています。

  をりとりてはらりとおもきすすきかな  飯田蛇笏

☆見た目とはちがったすすきの重さへの静かな感動にある愛しむ心がいいと感じます。とても音楽的な句です。
前半は「り」の三度の繰り返し、後半は「き」の二度のくりかえしが、「りrI」、「きkI」と変化しつつ母音イIの響きあいで連なる波を生み出していて、美しいです。
 また子音と織りなされているので目立ちませんが調べの快さを増しているのは、「をりとりOritOri」の母音オO音、「はらりhArAri」の母音アA音、「おもきOmOki」の母音オO音、「すすきsUsUki」の母音ウU音、それぞれの繰り返しです。とてもリズミカルで、日本語の母音の音色の美しさを伝えてくれます。

  芒の穂ばかりに夕日のこりけり  久保田万太郎

☆調べのうえでは「りrI」が快く、「にnI」、「ひhI」の母音イI音と、脚韻のように響きあい、細いさびしい詩情をかもしだしています。
 調べにささえられた、イメージ、情景が映像のように浮かびあがってきます。すすきの美しさがもっとも高まる瞬間を見事にとらえていて、美しい句です。

 ■ 出典:『俳句の花図鑑』(監修:復本一郎、2004年、成美堂出版)

 秋の俳句の花を見つめるエッセイは今回で終わりですが、どの句も秋の「美しさ」に感動する心を伝えてくれていて、俳句は素晴らしいな、花の句にこれからも出会いたいなと思います。
 ☆ お知らせ ☆

 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。
(A5判並製192頁、定価2000円消費税別途)
☆ 全国の書店でご注文頂けます(書店のネット注文でも扱われています)。
☆ Amazonでのネット注文がこちらからできます。
    詩集 こころうた こころ絵ほん

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。
絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
    こだまのこだま 動画  

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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