今回から数回、ドイツの
詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品
『ヒュペーリオン』を見つめます。シラーやゲーテより若い世代で、フランス革命、ナポレオン独裁の時代が青春期でした。ノヴァーリスとも会っています。彼の詩と『ヒュペーリオン』の価値をシラーやゲーテは十分には評価せず、二十世紀にようやく再評価された詩人です。
私は二十代で彼の作品を知り、とても感動しました。彼の詩については、次のエッセイで以前紹介しています。
ヘルダーリン、愛の詩 ヘルダーリンの愛の祈り 『ヒュペーリオン』は長編作品のため機会を逸してきましたが、読み返すことができた今やはり、とても好きだと感じて、その想いを深め伝えたいから、私はこの文章を書いています。
今回は作品全体について想うことを記し、次回以降は作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、滴をあびて呼び覚まされた私の詩想を記していきます。
1.
愛の詩人、愛の言葉であること
『ヒュペーリオン』は
書簡形式、手紙を束ねた、作品です。ですから、話者の想いそのものの流れで、抒情詩にかよいあうものがあり、直接心に言葉が飛び込んできます。
特に、愛し合うふたりが、愛するひとに、直接語りかけ、思いを訴える手紙は、
恋文、ラブレターそのものです。私は、人間が伝えようと言葉のうち、恋文ほど、切実な思いが込められた、強く心に迫ってくるものはないと思っています。同じほどの強さをもっているのは、死を前にした遺書と、死者への鎮魂の想いだけだと思います。
ヘルダーリンが三十歳頃に書いたこの作品の言葉が、心に強く迫ってくるのは、彼が深く愛した女性への思いそのものを込め、その愛するひとにこそ、語りかけているからです。彼が愛した女性
ズゼッテは、彼が家庭教師に赴いた家庭の夫人、4人の子どもの母親でした。
二人は引き離された後も逢瀬を重ねましたが、ズゼッテは不幸にも早世します。ヘルダーリンは深いショックを受け、心は彼女とともに亡くなったと感じます。その後の73歳までの彼は、精神の病の薄明をさ迷い続けました。
『ヒュペーリオン』を捧げた、心から愛した女性ズゼッテがいなくなった世界など、彼はもういらなかったのだと、私は感じます。
ふたりの豊かな愛の言葉の交感は、次回以降、ふれていきます。
2.
美と永遠 ヘルダーリンが天性の詩人だと感じずにはいられない、もうひとつの個性の強さ、それは、美と永遠を求めずにはいられない、彼の生来の資質です。彼の魂がとても美しく輝き出ている言葉を、『ヒュペーリオン』から今回の最後に引用します。
● 以下、出典からの引用 おお、最高にして最善のものを知の深淵に、行動の喧騒に、過去の闇に、未来の迷宮に、墓のなかに、あるいは星のかなたに求めているきみたち、きみたちはその名を知っているか、一にして全なるものの名を。
その名は美だ。
● 引用終わり。
次回もヘルダーリンの『ヒュペーリオン』を見つめ感じとります。
出典:『ヒュペーリオン ギリシャの隠者』ヘルダーリン、青木誠之訳、ちくま文庫 ☆ お知らせ ☆
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