敬愛するドイツの
詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめています。
私は二十代で彼の作品にとても感動し、その変わらぬ想いを深め伝えたいとこの文章を書いています。
作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、呼び覚まされた私の詩想を記しています。
今回の主題は、
絶望です。
祖国の自由独立を願い戦闘に加わった主人公ヒュペーリオンは、戦争の惨さを目の当たりにします。作者ヘルダーリンは、戦争がどのようなものか、殺戮の場で人間性がどのように貶められ失われてしまうか、凝視できる人でした。
「みさかいもなく略奪し、殺戮」するのが戦争です。
「狂った連中は自由のために戦っていると称している」、それが戦争です。
この残虐な状況は、人類の歴史が記録されてから現在まで繰り返されてきています。人間性を高める戦争、殺戮はありません。獣の群れとなることを許し甘んじてしまうことでしかありません。
戦争に勝利し武勲を讃える考え方に人類史の大部分の時間と人たちが囚われてきたのだから、絶望するしかないのでしょうか?
いつの時代にも、大義のために戦争を正当化して生活者を巻き込もうとする為政者はいました。
けれども、ヘルダーリンのように、ディオティーマのように、「戦争はよくない」と考え、表現し、伝えようとする人たちがいました。私もそのひとりです。そしていま、「戦争はよくない」と考え、表現し、伝えようとする人たちがこの小さな星のうえに、ともにいる、増え続けていると私は思います。
引用文の後半の、戦争で引き裂かれた、愛しあうふたりの嘆きは悲痛でこころ痛みます。
「もういちどあなたに出会うためなら、何千年も星の世界をさすらって、どんな姿でも取りましょう。」
ディオティーマの言葉は、嘆きを越えてしまった救いようのない絶望です。ヘルダーリンが彼女に絶望の言葉を語らせたのは、絶望した、死んでいった一人ひとりを、感じて、その無念を、語らせ、作品に結実させ、伝えようとした、伝えずにはいられなかったのだと私は思います。文学だからこそできることだと、私は思います。
● 以下、出典からの引用です。 おしまいです、ディオティーマ。部下がみさかいもなく略奪し、殺戮しました。われわれの同胞も打ち殺されました。ミシストラのギリシア人、罪もない人びとがです。途方にくれてさまよい歩いている人もいます。かれらの生気のうせた悲惨な顔は、天と地に呼ばわって野蛮人への復讐を求めています。その野蛮人の先頭にいたのが、わたしだったのです。
(略)凶暴な集団はところかまわず押し入っています。モレアでは略奪欲が疫病のように猛威をふるい、剣をとらない人まで追いたてられ、いのちを奪われています。しかし、狂った連中は自由のために戦っていると称しているのです。
人間の世界がこれ以上よくならないことが残念でなりません。よくなるものなら、よろこんでこのすばらしい星にとどまるのですが。
でも、わたしたちは? おお、ディオティーマ、ディオティーマ。いつ再会できるのですか。
会えないなんてありえないことです。おたがいがおたがいを失うなどと考えようものなら、わたしのこころの奥底の生(いのち)が憤ります。もういちどあなたに出会うためなら、何千年も星の世界をさすらって、どんな姿でも取りましょう。どんな生(いのち)のことばでも口にしましょう。けれども、似ているもの同士なら、すぐにおたがいを見出せるとも思っています。
おお、わたしのヒュペーリオン、こうしたことすべて知ってしまったわたしは、もうこれまでのようにおとなしい乙女ではありません。怒りに駆られ、思いは天上へと向かいます。地上は見たくもありません。傷ついたこの胸の震えはいっときもやみません。
(略)わたしは子供もほしくありません。子供たちを奴隷の世界にゆだねるつもりはありません。だって、かわいそうな植物たちはこの干からびた地でみるみる枯れてしまうにきまっていますから。
最初にして最後のひと、あなたはわたしのものでした。いつまでもわたしのものでいてください
● 引用終わり。 今回の最後に、ヘルダーリン、ディオティーマの想いと木魂する、私の詩を響かせます。お読み頂けると嬉しいです。
詩「星の海辺の小さな森で」(高畑耕治HP『愛のうたの絵ほん』から) 次回もヘルダーリンの『ヒュペーリオン』を見つめ感じとります。
出典:『ヒュペーリオン ギリシャの隠者』ヘルダーリン 青木誠之訳、ちくま文庫 ☆ お知らせ ☆
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