『日本の詩歌 別巻 日本歌唱集』(1974年、中公文庫)を読み、歌と詩について考えています。
前回までまず、わらべ歌、小学唱歌、童謡というとても楽しくなる歌をみつめましたが、これらの歌が生まれた時代について対照的にどうしても強く感じることがあります。ほとんど
絶え間なく日本が戦争をしていたことです。(アメリカはその後も相変わらず戦争ばかりしていますが。)
幕末、明治維新(1868年明治元年)は内戦でした。さらに西南戦争(1877年明治10年)を経て富国強兵を掲げる明治政府は国家間の戦争へ突き進み、日清戦争(1894年明治27年)、日露戦争(1904年明治37年)、第1次世界大戦(1914年大正3年~1918年)、第2次世界大戦(1937年昭和12年~1945年)、戦争だらけです。
歌は時代を映し出し多くの
軍歌、軍隊歌謡が作られ、歌われました。歌詞を読んで深く考えさせられる歌をまず、引用します。
敵は幾万 山田美妙斎 1891年明治24年(歌詞3番)
破れて逃ぐるは国の恥
進みて死ぬるは身の誉れ
瓦(かわら)となりて残るより
玉となりつつ砕けよや
畳の上にて死ぬことは
武士のなすべき道ならず
むくろを馬蹄(ばてい)にかけられつ
身を野晒(のざらし)になしてこそ
世にもののふの義といわめ
などて恐るることやある
などてたゆとうことやある
作詞者は
新体詩で著名ですが、日清戦争前の明治のこの時から既に「玉となりつつ砕けよや」、
玉砕の思想があったことに、その根深さを思います。
以前、
本居宣長が作られた虚像とは異なり玉砕を否定していたことを書きました。(
戦争と特攻隊と本居宣長 クリックでお読み頂けます)。
本物の文学者は虚飾の国家スローガンの扇動家にはけしてならない眼と志を持っていると、私は考えます。
キリスト教は、1874年明治7年にようやく解禁されました。同時にプロテスタントの
賛美歌集が編纂されました。明治の詩歌の開拓者たち、
北村透谷や島崎藤村はその新鮮な歌声の響きに影響を受けました。
私は両親がクリスチャンですので幼年時の日曜学校で好きになった賛美歌は今も心にあり、読むと心にメロディーが流れ出します。そのひとつを引用します。
主われをあいす 賛美歌
主われをあいす 主はつよければ
われよわくとも おそれはあらじ
わが主イエス わが主イエス
わが主イエス われをあいす
禁教は解かれても、キリスト教の信仰は、明治政府が民心に浸透させようとする儒教、神道、国家思想と、相容れません。1891年明治24年に内村鑑三が教育勅語奉読のさい礼拝を拒否した御真影不敬事件をはじめ、信仰への抑圧が、社会運動の弾圧と同時に行われました。
信仰や思想の自由という個々人の基本的な人権が認められていない社会だったことを忘れてはいけないと私は思います。
日本の最初の
普通選挙実施は1928年昭和3年ですから、それまでは幕末来の内戦と政争で権力を承継した少数の男性の為政者と資産家が、大多数の庶民に戦争を強制したというのが事実です。
女性の参政権は1945年昭和20年敗戦して初めて認められたのですから、あくまで戦争の被害者だと私は思います。
どのような大義による戦争であっても
いちばんの被害者は幼い子どもたちと、「殺せ、殺されろ」と強制される若者たちです。
次の歌は信仰に基づく歌ではありませんが、戦争をテーマにしていながら、国や軍隊といった組織の歯車としてではない、
生きているひとりの人間を感じさせる心があり、「あだ(仇・かたき)までも」という言葉に、少しだけ救われる思いがします。
婦人従軍歌 加藤義清 1894年明治27年(4番、5番)
真白に細き手をのべて 流るる血汐(ちしお)洗いさり
まくや包帯白妙(しろたえ)の 衣の袖はあけにそみ
味方の兵の上のみか 言(こと)も通わぬあだまでも
いとねんごろに看護する 心の色は赤十字
次回もこの『歌唱集』を通して、続く時代の戦争と歌、反戦の歌をもう少し見つめます。
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