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創作童謡。『日本歌唱集』(三)

 『日本の詩歌 別巻 日本歌唱集』(1974年、中公文庫)を読み、歌と詩について考えています。
 この本に収められた歌の対象期間は、江戸時代からの古謡を含め、1968年明治元年から1970年(昭和45年)くらいまでです。
 この本を読んで、私がいちばん楽しく懐かしく心ほがらかに感じた歌は、小学歌唱と童謡でした。
 今回は大正元年(1912年)、約100年前の歌からみつめなおしてみます。

 児童雑誌『赤い鳥』や『金の船』などが創刊されたこの時代に次々と発表された創作童謡は、いま歌詞を読み返してみても、とても魅力にみちてみます。子ども言葉を自然にとりいれ、子どもの目の高さで歌われていると思います。その良さが良く伝わってくる私の好きな童謡をまず引用します。

  靴が鳴る   清水かつら 1919年大正8年 (1番)

お手(てて)つないで 野道を行けば
みんなかわい 小鳥になって
唄をうたえば 靴が鳴る
晴れたみ空に靴が鳴る

  春よ来い   相馬御風 1933年大正12年 (1番)

春よ来い 早く来い
あるきはじめた みいちゃんが
赤い鼻緒(はなお)の じょじょはいて
おんもへ出たいと 待っている

 このほかにも、歌詞を読むだけでメロディーが浮かんでくる、魅力に満ちた歌を、画家も詩人も競うように発表しています。そのなかから、私が好きだな、と感じるものを一輪ずつ摘んで花束にしてみます。
 作詞者、「童謡名」、(歌詞の冒頭部分)の順にたばねます。

清水かつら「雀の学校」(ちいちいぱっぱ ちいぱっぱ)。
北原白秋「赤い鳥小鳥」(赤い鳥 小鳥/なぜなぜ赤い)。「五十音」(あめんぼ赤いな ア イ ウ エ オ)。
      「あめふり」(あめあめ ふれふれ かあさんが)。
野口雨情 「しゃぼん玉」(しゃぼん玉とんだ)。「七つの子」(烏 なぜ啼くの)。
      「赤い靴」(赤い靴 はいてた 女の子)。 「兎のダンス」(ソソラ ソラ ソラ 兎のダンス)。 
      「証城寺の狸囃子」(しょう しょう しょうじょうじ)。
三木露風 「赤蜻蛉」(夕やけ小やけの あかとんぼ)。
青木存義 「どんぐりころころ」(どんぐりころころ どんぶりこ)。
加藤まさを「月の砂漠」(月の砂漠をはるばると 旅の駱駝がゆきました)。
中村雨紅 「ゆうやけこやけ」(ゆうやけこやけで 日が暮れて)。
蕗谷虹児 「花嫁人形」(きんらんどんすの 帯しめながら)。
西条八十 「かなりや」(唄を忘れたかなりやは 後ろの山に棄てましょか)。

 なんてきれいなんだろう、という思いとともに気づくのは、歌は良く知っているけれど作詞者名は知らなかったということです。詩人として私は、作品が読まれ続けることを何より嬉しく思いますので、100年たっても子どもたちに歌われ続けている作詞者たちはきっと幸せだと思います。
 
 今回は最後に約50年前に生まれた、とてもいい歌詞の歌を引用します。作詞者はアンパアンマンでとても著名な方です。
 人間以外の生き物も「ともだちなんだ」とアイヌのユーカラのように当たり前のことだと言っている、この歌詞を私はとても好きです。自分のほっぺをちぎって食べさせてあげるアンパンマンの作者ならではと、詩人として敬愛の思いを抱いています。

  手のひらを太陽に やなせ・たかし (1961年昭和36年)

ぼくらはみんな生きている
生きているから うたうんだ
ぼくらはみんな生きている
生きているから 悲しいんだ
手のひらを太陽に すかしてみれば
まっかに流れる ぼくの血潮
みみずだって おけらだって あめんぼだって
みんなみんな 生きているんだ
ともだちなんだ

ぼくらはみんな生きている
生きているから わらうんだ
ぼくらはみんな生きている
生きているから うれしいんだ
手のひらを太陽に すかしてみれば
まっかに流れる ぼくの血潮
とんぼだって かえるだって みつばちだって
みんなみんな 生きているんだ
ともだちなんだ

 二回にわたり童謡を楽しくとりあげました。次回はこの歌唱集に深い影をおとす戦争をみつめ考えます。


 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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