『日本の詩歌 別巻 日本歌唱集』(1974年、中公文庫)を読み、歌と詩について考えています。
この本に収められた歌の対象期間は、
江戸時代からの古謡を含め、1968年明治元年から1970年(昭和45年)くらいまでです。
この本を読んで、私がいちばん楽しく懐かしく心ほがらかに感じた歌は、
小学歌唱と童謡でした。
今回は
明治末(1912年)頃までの歌、今からおおよそ200年から100年前までの歌をみつめなおしてみます。
最初に誰もが口ずさめる古謡、短い歌詞ですが、情景が色鮮やかに想いを染めてくれます。
さくら 日本古謡 (1番)
さくら さくら
野やまも里も 見わたすかぎり
かすみか雲か 朝日ににおう
さくら さくら 花ざかり
もうひとつ、誰もがいちどは聞きながらまどろんだ歌。ねんねん、ねんね、不思議なぬくもりある響きです。
江戸子守唄 東京 (1番)
ねんねんよい子だ
ねんねしな
坊やはよい子だ
ねんねしな
おなじ子守歌でも、奉公に出されたまだ幼さの残る女の子の悲しみが深く痛く心に沁みる歌もまた、歌い継がれてきました。
五木の子守歌 熊本 (3番、4番、5番)
おどんが打死(うっちん)ちゅうて
誰(だい)が泣いてくりょか
裏の松山蝉(せみ)が鳴く
おどんが打死(うっちん)ちゅうたば
道端(みちばた)いけろ
通る人ごち花あげろ
花はなんの花
つんつん椿(つばき)
水は天から貰(もら)い水
次にわらべ歌をひとつ。とても短い歌詞ですが、「ホーホー」とのばす音も、「あっち」と「こっち」と普段着の言葉も素朴な肌触りを感じる響きです。
ホーホー蛍こい わらべ歌(秋田)
ホーホー蛍こい
あっちの水は甘いぞ
こっちの水は苦いぞ
ホーホー蛍こい
山路(やまみち) こい
行燈(あんど)の光で
またこいこい
おなじ蛍を歌っていても、「蛍の光」は西洋化を推し進める明治政府が、学校で子供たちが歌う小学唱歌として創った歌です。「あおげば尊し」、「蝶々」なども最初期の唱歌です。
歌詞の冒頭だけを( )内に記します。
蛍の光 小学唱歌 1881年明治14年 (ほたるのひかり まどのゆき)
あおげば尊し 小学唱歌 1884年明治17年 (あおげば とうとし わが師の恩)
私は歌い継がれてきたどちらの歌もとても好きです。卒業式で涙がこぼれてしまう響きがあります。
歌詞そのものを読むと生硬で古風な雅語ですので、言葉の意味をわからないままの箇所もあったりします。たとえば「いつしかとしもすぎのとを」、「すぎのと」って何? というように。
私は、このふたつの歌の魅力の本当の源は、
感情移入を無理なく素直にできるメロディーにあると思います。前回、歌と詩それぞれの個性について記しましたが、
歌のいのちは、曲と声にあると思っています。
これらふたつの歌はメロディーがとても美しいので、もし歌詞が多少変わっても、極端に言えば歌詞がなくハミングで口ずさむだけでも、きっと感動は心にこみ上げてきます。このメロディーにのって響く友達の声に卒業式で包まれたら自然に涙が浮かんでしまうと、私は感じます。
詩では伝えられない、歌の美しさに身も心も包まれ揺られ、感動できればそれでいいと感じます。
次回は、続く大正時代、今から約100年前に創られ歌われた童謡に耳を澄ませます。
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