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まど・みちおの詩。はだかの生命(いのち)とこころ。

 好きな童謡は?と私が聞かれたら、いろんな童謡が思い浮かびますが、そのなかに
「ぞうさん」はきっとはいる気がします。とてもシンプルな良い歌です。
 今回はこの歌のほかにも「やぎさん ゆうびん」や「いちねんせいになったら」など、ひろく子どもたちに歌われている童謡の作詞者である、詩人のまど・みちおをみつめます。

 出典は『まど・みちお詩集』(ハルキ文庫、1998年)です。これまで彼の作品集を読んだことがなかった私ですが、この本を読んで、彼はとても優れた詩人だと感じました。いいな、好きだなと感じる作品がとてもたくさん輝いていて、心ゆたかに感じられる充実した読書体験でした。
 後日良い作品を見つけたら取り上げようと読み進めている『現代日本文学大系93 現代詩集』(1973年、筑摩書房)は著名な詩人の著名な詩集だけが収められていますが、悲しいことに心打たれる作品を見つけられず、苦行のようにも感じてしまいます。ですから、なおさら、なぜだろう?と考えずにいられません。

 まず、短い詩から。


  どうしていつも
        まど・みちお


太陽



そして


虹(にじ)
やまびこ

ああ 一ばん ふるいものばかりが
どうして いつも こんなに
一ばん あたらしいのだろう

 とてもシンプルな言葉の詩ですが、この詩をいいな、と私が感じてしまうのは、詩人のゆたかな感受性、みずみずしく世界をうけとめる心が感動していて、その思いの強さを、ふさわしい言葉を選びとって伝えてくれているからだと思います。私にとって、これが詩です。
 詩にとっていちばん大切なこのことについての、まど・みちおの能力はきわめて優れていると感じます。

 はっとする発見、うっと胸がつまるようなときめき、あっという驚き、気づかなかった感じ方、言葉で読者の心を、目覚めさせて揺らしてくれる、それが詩を読む喜びです。まど・みちおの作品には、心のうごきがいたるところに輝いています。心臓のように心が伸び縮みを繰りかえしています。こわいほど、彼の心はやわらか、だからのびやかです。どんなかたちにもなり、どんなものをも映し出します。

 たとえば次の詩を読むと、こんな感じとり方もあるのか、と驚きをおぼえます。同時に彼の言葉に対する感覚の鋭敏さを思わずにいられません。


  「めだまやき」
        まど・みちお


戦後(せんご)に使われだしたのだそうだが
「めだまやき」ということばは いたい
いたくて こわい
いきなり この目だまに
焼(や)きごてを当てつけられるようで…

いや 小さな弱い生きものたちの
はだかの目だまに
はだかの生命(いのち)に
この手が じかに
焼きごてを当てつけて楽しむようで…

いいことばだ どんどん使え
使いなれて 平気のへいざになれ
あの「たまごやき」ということばのように
と 何かにそそのかされるようで…

そのちょうしで そのちょうしで
いよいよ さいげんなく はてしなく
ざんにん ざんこくに なっていけ
と 何かにあおりたてられるようで…
こわい
「めだまやき」ということばは こわい

 この詩にも滲み出すようにあらわれていますが、私が彼の詩を好きだ、と心から感じるのは、彼が「はだかの生命(いのち)」を見つめ、感じとり、とてもゆたかな深い思いを込めた言葉にして響かせているからです。
 小さなカやアリなどの生き物から、ちいさな草花や木、上記の「どうしていつも」に歌われた無生物まで、どんなものをみつめても、「生命」を思い感じ伝えてくれます。
 

  馬の顔
        まど・みちお


馬の顔を そばで見ていると
じーんと してくる

汗ばんだ肌(はだ)が
夕やけて 息をするのが
地面の底からの 息のようで
私たち ぜんぶの生き物の
息のようで

円(つぶ)らな目ん玉が
はだかで うるんでいるのが
いま 神さまに
洗っていただいたばかりのようで
その神さまのお顔のほかには
なんにも映(うつ)していなさそうで

じーんと してくる
生き物という生き物の生命(いのち)を
ひとり勝手気ままにしている人間の
その子どもである ぼくの胸は

 この詩がとても好きなのは、詩として高めているのは、最終連に「ひとり勝手気ままにしている人間」という思いの深さがあるからです。まど・みちおのどの作品にも、この感じ方は基調音として響いています。だからこそ、彼には「ぞうさん」が生み出せたのだと私は思います。

 この数十年間に日本語で書かれた良い詩を読みたいんだけど、どんな本がいい?と聞かれたら、私がすすめたい一冊にこの本(彼の作品集)がこれからはいると思います。私自身が読み返したいですから。

 今回はアンデルセンに抱いている敬愛と同じ思いをこめて、私の詩を木魂させます。
  詩「愛(かな)しい瞳」(高畑耕治「詩集こころうたこころ絵ほん」所収)。

 次回からはゆっくり、女性の詩人の詩を感じとっていきたいと思います。


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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