崎本恵(ペンネーム・神谷恵)が今年新しく公開した3詩篇をとおして詩想を記す最終回です。
今回の詩は、とても濃密な詩情が込められています。とてもかなしくやさしく美しい詩世界がたちのぼります。
この詩心にみちた響きが私の心の土に沁み入り宿ってくれたことで、私の心で詩の種が目を覚まし芽吹き花咲き、新しい
詩「空の絵本」が生まれました。この木魂、詩心の交感を彼女は祝福してくださいました。
詩と詩が呼び合い、詩情がゆたかにあふれひろがり、ひとの心に花が目覚めて美しく揺れ微笑みあうことを私は願ってやみません。
いてくれるだけでいい
崎本恵病棟の公衆電話の前には
夜になると傷ついた蝶がやってきます
密が流れる箱に群がるのですが
ふしぎなことに 真ん中の箱だけが
いつも空いています
きっとここを去る者だけが使うのです
羽を広げる姿はまぶしくて美しいのに
なぜ彼らは黙り込むのでしょう
どんな存在もあたたかい
寒い夜 私は一番端の電話機の横に腰掛け
明かりの灯ったいくつもの家を
病院の窓越しに眺めるのです
突然に
帰りたい
無口だと信じていた蝶の泣き声は
それはそれはかなしいのです
君よ 真ん中でかけ直してごらん
花の匂いがするよ
密が流れてくるよ
ああ かみさま かみさま
間引きされた者の生きる時間は
深い闇のかなたにだけあかあかと灯っています
ここは たくさんのいのちが
ひとしきり降る驟雨のように
あっという間に通り過ぎるところ
さいわいな団らんを曇らせ
やがて朝の日に焼かれ
忘れられ 消えていくところなのです
涸れた箱
乳と密の流れる箱
私は夜ごとに電話機のそばに座り
自らは決してベルを鳴らさない箱に群がる
捕らわれた精霊たちの声を聞いて
そっと歌うのです
ちょうちょ ちょうちょ 菜の葉にとまれ
菜の葉に飽いたら 桜にとまれ
生きても舞い 死んでも舞う蝶たちの夜
とてもさむいのです
とてもあたたかいのです
***
(*高畑、注記:作品としての詩はここで終わりますが、続けて記されたブログの言葉も私は、ほとんど詩だと感じますので続けます)。
携帯電話のお陰で
電話ボックスは街中から消えつつあります。
でも、病棟には
乳と密と
そして涙の流れる箱が
いまだに存在しています。
下の写真のように、(*高畑、注記:ブログの写真は下のリンクでご覧になれます)。
「いてくれるだけでいいんだよ」
そう言ってくれるひとがいる
そんなひとは
なんと幸いでしょう。
たったひとりのあなたへ
私が祈っています。
あなたはいてくれるだけで
それだけでいいんです、
と。
出典は、
ブログ『遠い空へ』2012年10月31日です。
これら3篇のほかにも、心から心へ手渡されてほしいと願う美しい心の花たちが、彼女のブログの野の土に根ざし芽吹き、咲き揺れています。
ここには作品名だけを記しますが、私にとって、たとえば、
詩「希い」「紅い星 蒼い星」「ゆずりは」「名前」「泥と珍女」「だから今日を」「娼婦」「独り」「哀耳(あいじ)」は、心を咲かせてくれる言葉、とても好きな詩の花です。とても控えめな姿で野に咲くこの美しい花々の歌が、どうか風に運ばれ、詩を愛するひとの心に、耳にそっとささやいてくれますように。
崎本恵の詩はこちらの私のホームページでも紹介しています。
詩集『採人点景(さいとてんけい)』から。詩「息」「ほたる」「希い」 次回からは、もうひとり、私のとても好きな大切な詩人を見つめ、詩想を記します。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
こだまのこだま 動画 ☆ 全国の書店でご注文頂けます(書店のネット注文でも扱われています)。
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