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上田三四二の短歌(五)あふれでる詩想の泉。

 ここ約百年に生まれた短歌を見つめています。『現代の短歌』で出会えた、私なりに強く感じるものがあり何かしら伝えたいと願う歌人の、特に好きな歌です。
 前回に続き、上田三四二(うえだ・みよじ、1923年・大正12年、兵庫県生まれ)の短歌をとおして、日本語の言葉の音楽、歌に耳を澄ませます。
最終回も音楽性ゆたかな歌五首です。それぞれの歌に感じたことを記していきます。短歌の前に、所収の歌集名、刊行年と彼の年齢を記しています。

                     『照脛』1985年(昭和60年)、62歳。
秩父路に秋みちひかりきよからん秩父より来る雲をまぶしむ

*この歌には「秩父CHICHIBU」という言葉が二回現れ、字形、字のかたちと音で呼びあっています。加えて「秋」は字形が「秩」と似通っていて、微かな呼応をしています。
 ひらがな漢字が混ざりあう日本語では、完全な表音文字の西欧言語とは違って、ひらがなに浮かぶ漢字の字形でも、呼応や美しさを伝えることができます。
*音の流れで感じるのは、冒頭は「ちちぶじはあきみちひかりきchIchIbujIwa akImIchIhIkarI kI」と母音イI音を重ねて、意味の「秋のひかり」のひんやりし始めた感覚を音でも支えています。
*続く「きよからん」のrANでいったん音が切れ、息の休止、間が生まれるので、次の「秩父」が冒頭の「秩父」と頭韻している感じが深まっています。
 詩歌は言葉の歌なので、音色と同時に、音のない、息をとめた、無音の間、沈黙はとても大切です。(詩では字間と余白も。)
*最後の「くるくもをまぶしむ」は転調していて、「KUrUKUMowo MabUshiMU」と母音ウU音が基調をなし、「く」の重なる音と、子音M音も目立たずに音色の流れを変化させています。
*静かな叙景の歌ですが、心に意味も沁みて拡がりを感じるのは、音色の変化の美しさのちからが大きいと感じます。

お河童のゆれてスキップに越しゆきぬスキップはいのち溢るるしるし

*冒頭の「おかっぱ」という一語で、女の子の顔と髪が浮かび童謡調に誘われます。
*「おかっぱ」「スキップ」「スキップ」と「っ」「ッ」が、意味、イメージそのままに歌を弾ませるリズム感を生んでいます。
*「ゆれて」「ゆきぬ」という言葉も、幼い女の子の髪が「揺れ」進んで「行く」意味、イメージと、「ゆYU音」の優しく柔らかな調べが溶け合っています。
*結びは、「いのちあふるるしるしINOCHI afURURU SHIRUSHI」、と母音イI音と「チCHI」「シSHI」の鋭い音で「いのち」「しるし」この2語を際立たせながら、「るるRURU」「るRU」が優しい音色で包んで居ます。まるで、フルートの音色のような流れが美しい、好きな歌です。


                    『鎮守』1989年(平成元年)、66歳。
これの世に女人はわれの悲母(ひも)にしてわれよりわかき母をかなしむ
*漢字の「母」をはじめは「もMO」、次には「ははHAHA」と、同じ字形で読みの音を変化させ日本語の特徴を生かしています。
*歌の調べの流れのなかで「われwAre」の繰り返しと「わかき母wAkAkihAhA」が「わWA」音を重ねる押韻を響かせ、「かなしむkAnAshimu」まで、母音アA音の明瞭な音色が主調音となっています。
*「してSHIte」と「しむSHImu」も変化する木魂を響かせています。
*ひらがなの流れのなかに浮かびあがる漢字、「世」「女人」「悲母」「母」が、その字形だけで歌の主題を、意味とイメージを醸し出しています。

行きすがふをみなにてかぐ果のごときにほひを曳けり秋闌(た)けにけり

*音調の変化の魅力が、詩想の魅力をうわまわっているような歌です。
*「がふgAU」と「かぐkAgU」、「ごときgOtOkI」と「にほひniOhI」は母音がかすかな呼応をしています。
*全体の流れに潜んでいる、母音ではイI音がリズムの基調にあります。「IkIsugau omInanItekagu kanogotokI nIoIwohIkerI akItakenIkerI」。第一音と下三句の最終音がイI音のため生まれる印象です。
*子音ではG音とK音が主調で、を含み母音との組み合わせで変化する音、「きKi」「がGa」「かKa」「ぐGu」「果Ka」「ごGo」「きKi」「けKe」「けKe」「けKe」がリズム感を生んでいます。
*末尾の「ひけりあきたけにけりhIKerIaKItaKenIKerI」は、交互に現れる母音イI音と、子音K音が、とても耳に快い響きを奏でています。

 上田三四二の短歌の音楽性を感じとってきました。最初に引用した短歌を最後にもう一度聴きとります。

死はそこに抗ひがたく立つゆゑに生きてゐる一日(ひとひ)一日はいづみ

 詩歌の詩情があふれで感じられるのは、言葉の意味イメージ音色リズム字形と字形の並び読み方という要素が、表現技術として意識的または無意識的感覚的に、作者によって選ばれ、生まれ出たいと生まれ出ながら、溶け合い生かし合う言葉、美しい歌になっているからです。
 この歌は、書かずにはいられない想いが泉となってあふれ、美しい歌となって心に沁み、響き、こだまします。
言葉のあらゆる要素が詩想と溶け合い詩情となって輝いています。

 生きている息づいている詩歌の言葉は、本当は分解するものではありません。正解はありません。作者も正解を押しつけはしません。好きな時に好きなように感じ取って下さいと、読者に差し出します。
 詩歌は自分の好きなように自分なりの仕方で、見つめ、感じとり、愛するものです。生きている大切な人、愛する人に向き合うときと同じです。

出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)

 次回はまた違う個性の歌人の歌を聴き取りたいと思います。

 ☆ お知らせ ☆
 『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年同
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年同
「愛(かな)」1993年同
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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