ローマの
詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。
「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。
輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。
今回は
ピュラモスとティスベの純愛の瞬きです。
オウィディウスの『変身物語』のこの一節は、
シェイクスピアの『ロミオとジュリエット』の源となった、若い男女の
純愛と死の物語です。
お互いを見初め愛しあった若い二人ピュラモスとティスベは、隣り合う住まいの壁のわずかな隙間越しに会話を交わすことしかできない状況にいます。ある日二人は外で会うことを約束します。
約束の場所に先にたどりついたのは少女のティスベでしたが、近くに獅子がいたため、洞窟へと隠れました。そこへ遅れてやってきた青年ピュラモスは、落ちていたティスベのヴェールに血がついているのを見て、彼女が獅子に襲われたと思い込みます。
引用した言葉は、青年ピュラモスの言葉。そして、獅子が去っただろうと洞窟から出てきて約束の場所で、倒れ死にかけているピュラモスの姿に驚愕し嘆く少女のティスベの言葉です。
愛する想いが、激しく燃えひろがる炎のようです。赤く、血の色に染め上げられ、熱く、嘆きと悲しみが、心と肉体までも焼き尽くします。
純真。純愛。若い激しさが悲劇に突き進み、心を刺します。オウィディウスがまぎれもなく愛の詩人であることを、これらの言葉は響かせてやみません。
時代と言語を越えて千数百年後に『ロミオとジュリエット』を呼び覚まし、変奏を奏であいながら二千年近くたった今も、色あせず、朽ちないのは、いつの時代にも変わることのない、人間にとってなにより尊く、大切に思える心、愛が歌われていると、誰もが感じずにはいられないからだと思います。
若い愛しあう二人は、純愛のうちに死を選び自らをほろぼしたことで、永遠にその若さのままで愛しあっていると感じてしまう、そうあってほしいと願い、祈らずにはいられない、美しく悲しく心に響き続ける、愛の詩、愛の星です。
● 以下、出典の引用です。 『この同じ一夜に、恋人ふたりが死んでゆく。ふたりのなかでは、彼女のほうこそ、生きながらえるのにふさわしかったのに。悪いのはぼくだ。かわいそうに、ぼくがおまえを死なせたのだ。危険にみちたこの場所へ、夜歩きをさせて、させた本人が遅刻するなんて! ぼくのこのからだを、罪深いこのはらわたを、荒々しい牙(きば)で食い尽すのだ、おお、この崖下に住む獅子たちよ! が、口先で死を願うのは、臆病者のしわざだ!』
ティスベのヴェールを取りあげ、約束の木陰まで持ってゆきます。見知ったそのヴェールに涙をそそぎ、口づけして、こういうのです。『今こそ、さあ、ぼくの血潮も吸ってくれるのだ!』
腰につけていた剣を、わき腹に突きたてました。
(略)
でも、しばらくあとで、それが自分の恋人だとわかると、罪もない腕を高らかに打ちたたいて、嘆きをほとばしらせます。髪を引きむしり、いとしいからだを抱いて、傷口を涙で埋めますと、その涙が血と混ざるのです。冷たい顔に口づけしながら、『ピュラモス!』と叫びました。『何という不運が、あなたをわたしから奪ったのでしょう? ピュラモス、答えてちょうだい! あなたの最愛のティスベが、あなたの名を呼んでいるのよ。聞いてちょうだい!うなだれた顔を起して!』(略)
『あなたの手と、そして愛が、あなたの生命を奪ったのね、不しあわせなかた! でも、わたしにも、その同じことをするための雄々しい手と、愛がありますわ。その愛が、みずからを傷つけるだけの力を与えてくれるのよ。あの世へおともをいたしましょう。あなたの死の哀れな原因でもあり、その道連れともいわれましょうよ。死によってのみわたしから引き離されることのできたあなたが、もう、死によってさえも、引き離されることはできないのです。(略)』
● 引用終わり。今回の最後に、ピュラモスとティスベの純愛に木魂する私の詩を響かせます。お読み頂けると嬉しいです。
詩「菜の花のひと、かもの愛」(高畑耕治HP『愛のうたの絵ほん』から) 次回も、この天の川に輝く、わたしの好きな神話の美しい星を見つめます。
出典:『変身物語』オウィディウス、中村善也訳、岩波文庫 ☆ お知らせ ☆
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