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ケプラーの詩心(二)天体の音楽と祈り

 ケプラーは生涯にわたる探求で見出した天文学の法則を叙述する著作に、彼の心では切り離せず一体となっている詩心と祈りの調べを織り込めています。前回『世界の調和』の全体イメージをまとめたことを受け、彼が本当に探していたもの、伝えたかったものは何だったのかを考えます。
 引用は、『世界の調和』(ヨハネス・ケプラー、島村福太郎訳、『世界大思想全集(社会・宗教・科学31)』所収、河出書房新社、1963年)によります。

 『世界の調和』の第5巻、天文学・形而上学篇、「調和的比例による離心率の起源と天体運動の完全な調和」の第3章で、彼が見出した天文学の三つの法則を述べた後、次の二つの章では、ケプラーが書かずにはいられないことを書くための下地が作られます。
 第4章、「創造主による惑星の諸運動の際に、調和的比例がどこに表現されるか、またはそれはどのように起るか。」
 第5章、「見かけの惑星運動の比率(いわば太陽上の観察者に対する)においては、体系の諸段階、すなわち音性長調と短調のような音階が表現されること。」

 彼の詩心はここから後の章に記されていきます。言葉とともに美しい楽譜と音符が頁の上に描かれていて、まるで歌っているかのようです。ケプラーが見出した法則以上に本当に訴えたかったのは、宇宙について、生きることについての信念、祈りであるこれらの言葉ではなかったかと私は感じて心を揺さぶられます、科学史のうえでは価値ないものとして捨てられ省みられない言葉であっても。
 ケプラーの心の言葉、祈りの詩 、私にとって大切な共鳴する音楽を、ここに植えつけ響かせたいと思います。

 第6章、惑星の極端な諸運動においては、ある仕方で、音楽的な旋法すなわち音調が表現されること。
     概略:二つの隣接した惑星の極端点における運行の間に存在する調和的比例について。
 「惑星間に音楽の音調を割り当てられる。(略)
 私は土星には常用の音調によって第七または第八音調を与えたいと思う。木星に対しては、(略)第 一ないし第二音調をあてがう。火星には第五もしくは第六音調を与える。(略)
 地球については第三ないし第四音調を与えてもよいだろうと思う。というのはその運動は一つの半音の内部に止まり、その音調にあっては、最初の音程が一つの半音(原注)なのである。
 水星にあっては、その音程がきわ めて広域なために、どの音調も同一の方程で適合するであろう。金星にあっては、その音程が狭いために、どんな音調も現われない。(略)」
 (原注)地球はミ・ファ・ミと歌う。
 そこでこの語の綴りからすると、われわれの住みかには「ミゼリアとファーミス」(災難と飢餓)とが支配する、
と受け取 ることができる。」
 この原注に私は心打たれました。ケプラーがこの膨大な著作に小さく記したこの注に込めた思いがとても強く悲しく響いて私の心を離れません。このエッセイを書いた一番強い動機もこの言葉を書いたケプラーを伝えたいことにあります。

 ここからさらに、ケプラーはより深まりより強く詩を奏でていきます。天体は調和する音楽であると、彼は信念を歌います。

 第7章、六個の全惑星に、共通した四重の対位法と同じの全体調和が存在すること。
 「さてもウラニア(天文を司る女神)よ。世界構造の真の原型が秘匿され、保存されている個所へ向って、私が高き天体の運行の調和的な階梯をのぼっていくにつれ、響きはまますます高鳴ってくる。こんにちの音楽家たちよ、私に続け、(略)
 御身らの重音のメロディーをとおして、御身らの耳の媒介によって、自然は人間の精神に、神の姿をした愛児に、その内部の本質をささやく。
(原注)(略)天空では六つの声調が共鳴していることに気づいた。なぜなら月は、地球のそばではそこに発祥地をもつかのごとく調和的に音をたてる。(略)。
 私の著作に述べられている天の音楽を最もよく表現する者には、クリオ(歴史を司る女神)が花環を約束し、ウラニアが、花嫁としてヴィーナス(恋愛と美を司る女神)を約束する。」

 「天体の運行は一つの音楽である。それは、恒久的な重音の音楽(耳によっては聴きとりえず、理解によって聴きとりうる)、すなわち、不調和な調子によって、(略)一定の、さきにのべた、それぞれ六段階(同時に六重音)の約款上に向けられた、そしてそれによって無限の時の流れの中で種々の符号をもつところの、音楽以外の何者でもない。
 それゆえに、その姿の模倣者である人間が、昔の人々に知られていなかった多重音旋律の技術をついに発見したことは、もはや少しも驚くにあたらない。人間は間断なき世界の時の流れをより多くの音律の精巧な交響曲をもって短時間の中に奏しようとする。そして神を模倣して彼にこの音楽を用意する歓喜の気持で、神の芸術家の満足を可能な限り彼の作品の中にたしなもうとする。」

 第8章、天体の調和においてどの惑星がソプラノ、アルト、テノール、バスを代表するか。
 「音楽的実地がバスに与え、自然が自己のために必要とする特質は、天空においても特定の方法で、土星と木星とに見出される。またテノールの特性は火星に、アルトの特性は地球と金星に、ソプラノの特性は水星において見出される。そのさい、たしかに間隔の同等性はないが、確実な比例性は存在するのである。」

 ケプラーの言葉の響きは極限まで高まり、詩は祈りに重なり溶け込み、永遠に向きあい響き続けます。

  第9章、個々の惑星における離心率は、その起源を、運行の間の調和に対する配慮の中にもっていること。
 「神の模倣者としてのわれわれが、敵意、争い、嫉妬、怒り、口論、不一致、不和、猜忌、挑戦的な特性、挑戦的な言葉等あらゆる不協和と肉体の他の行為を遠ざけつつ、(略)彼の作品の完全さにならおうと努めていることに対して、彼はわれわれに力を与えるかもしれない。(略)
 「聖なる父よ、(略)貴方が貴方の全作品を愛らしい一巻の協和音によって統一したのと同じような、そういう人間でわれわれがあり得るために、(略) 貴方が、調和で天空を基礎づけたように、(略)われわれを互いの愛情の協和音の中に維持させたまえ。

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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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