藤原定家の和歌のうち私が好きな歌を摘み取り、ここに咲かせます。
本歌取りや物語の言葉が巧みに織り込められた歌を味わうためには調べることがどうしても必要です。そのような歌を悪くは思いませんが、「好きな歌」という野原には咲いてくれないようです。野草が好きな私の好みです。
出典の『定家の歌一首』にちりばめられた数多くの歌から摘み取りました。歌が響かせてくれる
主調音を聴き、
「月と星」、「花」、「亡き母を偲ぶ歌」としました。
定家の歌のうち特に、
「月と星」の、ひかり、澄みとおる、冴えた、ひびきが、とても美しいと私は感じます。このように月と星を歌えたのは、彼が詩を極めようとして漢詩を貪欲に学んだ執念への、詩神からの贈り物なのかもしれません。
「花」、「亡き母を偲ぶ歌」の歌にも、言葉をあらい言葉の芸術を極めようとした定家らしさを感じます。美を追い求める彼の魂にとって、
この世のものを言葉で詩世界に昇華させて結晶とすることが生きることだった、そう感じてしまう詩魂の調べがふるえています。
☆ 月と星
とこのうへのひかりに月のむすびきてやがてさえゆく秋のたまくらさえとほる風のうへなるゆふづく夜あたる光にしもぞちりくる風の上にほしの光はさえながらわざともふらぬあられをぞきくさえのぼる月のひかりにことそひて秋のいろなるほしあひのそら
あまのはらそらゆく月の光かは手にとるからに雲のよそなるありあけのあか月よりもうかりけりほしのまぎれのよひのわかれは長月の有明の月のあなたまで心はふくる星あひの空ほしの影のにしにめぐるもをしまれて明なんとする春のよの空秋の月なかばのそらのなかばにてひかりのうへにひかりそひけり☆ 花
あぢさえのしたばにすだく蛍をばよひらのかずのそふかとぞ見るふるさとは庭もまがきもこけむして花たち花の花ぞちりける見わたせば花も紅葉もなかりけり浦のとまやの秋の夕暮花の春紅葉の秋とあくがれてこころのはてや世にはとまらん☆ 亡き母を偲ぶ歌
たまゆらのつゆもなみだもとどまらずなき人こふるやどの秋風まださめずよしなきゆめの枕哉心の秋を秋にあはせておなじ世になれしすがたはへだたりてゆきつむこけの下ぞしたしき出典:
『定家の歌一首』(赤羽淑、1976年、桜楓社)。
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