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細野幸子の詩(二)。つばさ雲、かなしみと美。

 前回に続き、詩人・細野幸子の詩をみつめます。今回は第2詩集『三角公園で』(1994年、あぜん書房)に咲いている小さな花です。
 短い詩ですが、詩そのもの、純粋な詩を、感じていただけると思います。

 頭でっかちの詩人気取り屋や前衛自称の批評屋は、このような純粋な世界を、思春期の少女の夢想に過ぎないとあざ笑うかもしれません。でも、そのような賢く錆びた論理に涸れた思考や嘲笑に、詩心を失ってしまった貧しさを自ら曝け出している醜さを私は感じます。
 思春期の少女は素晴らしい詩人です、思春期の少女の夢想は詩です。女も男も生まれてすぐ詩人になります。
忘れてしまい、失くしてしまい、捨ててしまい、退行してしまうだけです。自慢できることではありません。

 詩心は、大切に抱き育てれば、失わずに、もっと深く豊かにしていくことができます。
 純粋で、はかない、それでもこみあげてくる思い。とうめいな、こわれやすい、飛んでゆかずにはいられない羽の、かなしみ。
 つばさ雲。
 ひとつの詩句に、想いははるか遠くまでひろがります。

 見つめずにはいられない景色を前にする時のように、短いこの詩句の世界に入ってゆくと、雑念と雑踏の日常の時間がなぜか消え、音のない、時が止まるほど静まってゆく世界に、息をとめて、佇んでいる心を感じます。
 その瞬間の音のない言葉を文字で綴ったら、きっとこんなかたちになります。
 うつくしい。
 詩は美。とても大切なことを、思い出させてくれる、とても好きな作品です。


  哀訴 ――雨のまちから風のまちへ
           細野幸子


部屋のまどから眺めています

目にみえるもののなかで
只ひとつ あの街へつづく空
ちぎれた雲が白くひかって
まるで 天使の羽のようです

  ――帰りたい
  うすむらさき匂うあのまちへ

与えたその手で この腕の中から
あなたがとりあげた わたしの
大切なものたちはどうしていますか
あきらめの底で見詰めています
ただ 空だけを

  鳥にもなれず
  風にもなれず

あたりがすこし夕暮れてきました
傾きはじめた太陽の真下を
つばさ雲がながれてゆきます
空のむねを燃えながら ひた走る
かなしみのようです

ああ かみさま
おおきく羽ばたけと 人間に
あなたが授けてくださった
とうめいな翼は あまりにも
こわれやすくて――


 次回も、細野幸子の詩をみつめ詩想をしるします。

 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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