出典の2冊の短歌アンソロジーの花束から、個性が心に響いてきた歌人について好きだと感じた歌の花を数首ずつ、私が感じとれた言葉を添えて咲かせています。生涯をかけて歌ったなかからほんの数首ですが、心の歌を香らせる歌人を私は敬愛し、歌の美しい魅力が伝わってほしいと願っています。
出典に従い基本的には生年順です。どちらの出典からとったかは◆印で示します。名前の前●は女性、■は男性です。
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木俣修(きまた・おさむ。1906年・明治39年滋賀県生まれ、1983年・昭和58年没)。
うち晴るる雪の野に舞ふ白鷺の羽のひかりは天(あめ)にまぎれぬ 『高志』1942年・昭和17年
◎言葉に浮かぶイメージの色彩感と音楽がとても美しい歌。雪と白鷺の白と光がまばゆく交錯します。
冒頭に母音U音と子音R音で「UchihaRURU」とリズミカルに快く入り、「晴るるHAruru」と「鷺SAgi」、「羽HAne」、「ひかりHikAri」、は、明るい母音アA音で基調音を織りながら子音HとS音の息のかすれでも木魂しています。
また「雪の野に舞うyukiNoNoNiMau」と「天にまぎれぬaMeNiMagireNu」の詩句は、子音M音とN音によりなめらさな落ち着きある調べとなっています。
毛の帽の下にかがやく瞳(め)を見ればこの夜(よ)発(た)ち征く兵うらわかし
無尽数(むじんず)のなやみのなかにあがくさへけふのつたなきわれが生きざま 『冬暦』1948年・昭和23年
ペシミズムにまたおちてゆく結論にあらがひて夜の椅子をたちあがる ◆
◎どれも戦争、戦後すぐの時代に、死の影が心を侵食することに、耐え抗っている歌。歌とすること、書くこと自体が、あがきでありつつ、あらがうこと、耐えることであり、たちあがり生きようとすることだと、教えられます。
生(しやう)終へし蜻蛉(あきつ)の翅はひかりつつ落葉のうへにいく日(ひ)保たむ ◆
◎この歌も同じ心象から生まれつつ、死んだとんぼのはねのひかりが心象の象徴となり、歌として美しく響いています。
母音はイI音が基調で子音Sとの「しSI」、子音Kとの「KI」、子音Hとの「HI」、子音Rとの「RI」、子音Nとの「NI」へと子音との組合せを変えつつ引き締まった緊張感の流れを生んでいます。
無花果は熟れて匂へどよろこびのこゑあげん高志汝(なれ)はすでになし 『落葉の章』1955年・昭和30年
たちまちに涙あふれて夜の市の玩具売場を脱れ来にけり
亡き吾子にかかはる会話危ふくて妻は林檎に光る刃をあつ 『点に群星』1958年・昭和33年
石仏(せきぶつ)に亡き子の帽子かぶせたるかなしき親の胸をしぬびつ 『去年今年』1967年・昭和42年
◎この四首は、子に先立たれた悲しみの歌。子に語りかけつつ自らにか言い聞かせる、やりばのない悲しみに心が打たれます。残されてできるのはもう歌うことだけ、そのような思いの深みに、ひたされ心が「ああ」とふるえます。それが詩歌だと私は思います。
出典:『現代の短歌』(高野公彦編、1991年、講談社学術文庫)。
◆印をつけた歌は『現代の短歌 100人の名歌集』(篠弘編著、2003年、三省堂)から。
次回も、美しい歌の花をみつめます。
☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年
3月11日、
イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2000円(消費税別途)しました。
イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。
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