前回は、
中塚一碧楼(なかつか・いっぺきろう、明治二十年・1887年~昭和二十一年・1946年。岡山県生まれ)の自由律俳句の宣言ともいえる言葉について考えました。
今回は、彼の自由律俳句そのものから、特に私の心に響いた作品をとりあげ、詩想を記します。カッコ( )内は現代かなづかいでの読みを私が加えたものです。
児の心ひたぶるに鶏頭を怖づ (このこころひたぶるにけいとうをおず)
☆音数律は、5音・5音・7音で、通常と同じ17音ですが、中・下の通常7音5音が逆転しています。「ひたぶるに」の5音のあと通常音数ある2音を期待する「ため」のような時間が生まれており、「けいとうおおづ」の7音は通常音数5音に付け加えられた「おづ」が字余りで浮き出し強調される効果がでています。心象の強いイメージの句ですが、「鶏頭」が鶏のトサカそのものか、同名の花を指したのか、私にはわかりません。どちらにしてもその強烈な「赤」色を怖れる心理はわかります。
親鳥まどろみ春の潮鳴りたうたうたう (おやどりまどろみはるのしおなりとうとうとう)
☆音数律は、8音・7音・6音の21音です。上は3音余計にある長さが「まどろみ」という意味とあっています。
下の「とうとうとう」は母音「オOウU」の音色の抑揚と繰り返すリズムで、波のイメージと溶け合っていて、音と表象が一体となり心に浮かび揺れ動きます。
蚊遣りの草のしめりを知りたりしふたり (かやりのくさのしめりをしりたりしふたり)
☆とても音楽的な句です。「の」が2音、「り」が6音、「し」が3音、畳韻のように繰り返され、「しsI」と「りrI」に隠れた母音I音が、全19文字中の半数近い9文字に響いています。
上・中・下の区切りが、切れ字を捨てて曖昧にしているのも自由律俳句の特徴です。この句の場合、意味の切れ目の「かやりの・くさの・しめりを・しりたりし・ふたり」をどのようにつなげるかは、読者の任意で、「4音・7音・8音」でも、「7音・4音・8音」、「7音・9音・3音」どのように切っても間違えではありません。その自由度が自由律だからです。さらに言えば作者は、上・中・下、句の中に2回の深い切れ目を置くことにも拘りを捨てているので、俳句の伝統から読者が自由に2回の切れ目を選んでいるとも言えます。
わが行く冬の野の小鳥よ翔ちて小鳥よ (わがゆくふゆのののことりよたちてことりよ)
☆この句は全20音で、やはり上・中・下の読み方にも広い自由度があります。「わがゆく4音・ふゆのののことりよ9音・たちてことりよ7音」、「わかゆくふゆの7音・ののことりよ6音・たちてことりよ7音」、「わがゆくふゆののの9音・ことりよ4音・たちてことりよ6音」。恐らく作者は、読者がどこで何回切ってもかまわないと考えていると思います。
麦秋の河のうねりうねり入る海や (ばくしゅうのかわのうねりうねりいるうみや)
☆この句も幾通りにも切れるからこそ自由律です。作者が切れにこだわりがあったなら、たとえば切れ字に代わる表現方法を工夫して、「麦秋の河の うねりうねり 入る海や」のように余白を入れるか、「麦秋の、河のうねりうねり、入る海や」とすることもできただろうからです。
次回は、自由律俳句のこの音数律の自由度について、もう少し掘り下考えます。
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恐怖心は人それぞれで、なぜ怖いのかはブラックボックスに収まったままですね。でも、それでよいのかと思います!