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武者小路実篤の詩「戦争はよくない」と、原発。

 今回からは、新体詩に続く時代に書かれた詩、近代の詩と詩人『日本の詩歌26 近代詩集』(1970年、中央公論社)を通してみつめ考えていきます。
 
 この本で最初に印象深く心に響いたのは、武者小路実篤でした。伊藤信吉の解説(以下同じ)によると、彼は1910年明治43年「白樺」を創刊。理想郷「新しき村」を宮崎県日向に1918年大正7年開設しています。

 私は彼の小説を中学生のとき読んだ記憶があります。夏目漱石の『こころ』などとともに読書の入り口の時期に良く読まれる本ではないでしょうか。
 白樺派はなぜか好きで親しみを感じ、志賀直哉の『暗夜行路』も良く分からないまま読んだこと自体に満足して、大山に登山したおりなど主人公に自分を重ね感慨深く感じた思い出があります。

 青年期になり、小説家を目指し始めた頃は有島武郎に深い共鳴を感じほとんどの作品を読みました。
 その後、私は、思集・詩想集ともいえる『死と生の交わり』を書き、次作品の『海にゆれる』からは詩集を創作し生きていますが、彼の人間性、作品では「惜みなく愛は奪ふ」や「クララの出家」など、今も変わらず心に残っています。(彼と太宰治と原民喜を日本の作家として私は心から敬愛しています。)

 白樺派の作家(ただ志賀直哉は太宰の『斜陽』にたいする鈍さで幻滅しましたが)に共通して響いているのは、人間、いのちをみつめるまなざし、ヒューマニズム、文学の根源にある泉です。
 
 『近代詩集』には、武者小路実篤の詩が3篇掲載されていますが、どれも強い個性を感じる言葉です。「火を」、「一個の人間」と、引用する「戦争はよくない」です。

 解説によるとこの詩は、プロレタリア文学運動の先がけの役割を果たした無産階級文学の先駆的雑誌「種蒔く人」に、1921年大正10年12月号に発表されました。第一次世界大戦後、数年の時期です。


  戦争はよくない

             武者小路実篤

俺は殺されることが
嫌ひだから
人殺しに反対する、
従って戦争に反対する、
自分の殺されることの
好きな人間、
自分の愛するものゝ
殺されることの好きな人間、
かゝる人間のみ戦争を
讃美することが出来る。
その他の人間は
戦争に反対する。
他人は殺されてもいゝと云ふ人間は
自分は殺されてもいゝと云ふ人間だ。
人間が人間を殺していゝと云ふことは
決してあり得ない。
だから自分は戦争に反対する。
戦争はよくないものだ。
このことを本当に知らないものよ、
お前は戦争で
殺されることを
甘受出来るか。
想像力のよわいものよ。
戦争はよしなくならないものにせよ、
俺は戦争に反対する。
戦争をよきものと断じて思ふことは出来ない。
 
 とてもまっすぐな言葉です。詩としては最小限の技巧、形をたもつだけです。それでも、訴えかけてくるものの強さを受け止めたいと感じさせる力強い作品だと私は思います。このような言葉がもっとあっていいと思います。

 表現のかたちは異なりますが、込めた思いの強さは通じている私の作品をここに木魂させます。

   「おばあちゃんの微笑み」(『詩集 こころうた こころ絵ほん』所収)。

 政治が絡むテーマの主張は、プロパガンダ、煽動に転じやすい危うさをもちます。イデオロギーと同じ言語レベルの頭だけで考えたことの発言と化してしまうと。ひとりの人間の眼差しが見つめた、心の揺れ動きに生まれた言葉でなければ。でも、そのことを意識しつつ、「本当のこと」を伝えるのが詩人だと私は考えています。

 この詩「戦争はよくない」を読むと、いま私の胸のうちに聞こえる声があります。直接の結びつきはなくても、重なるその心の響きは単なる政治主張ではない、もっと人間にとって大切な本当のことだと、聴きとり感じとる方は私だけではないと思います。

「原発はよくない」。声が木魂しています。


 ☆ お知らせ ☆
『詩集 こころうた こころ絵ほん』を2012年3月11日イーフェニックスから発売しました。A5判並製192頁、定価2100円(消費税込)です。

 イメージング動画(詩・高畑耕治、絵・渡邉裕美、装丁・池乃大、企画制作イーフェニックス・池田智子)はこちらです。絵と音楽と詩の響きあいをぜひご覧ください。

    こだまのこだま 動画
  
 ☆ こちらの本屋さんは店頭に咲かせてくださっています。
 八重洲ブックセンター本店、丸善丸の内本店、書泉グランデ、紀伊国屋書店新宿南店、三省堂書店新宿西口店、早稲田大学生協コーププラザブックセンター、あゆみBOOKS早稲田店、ジュンク堂書店池袋本店、紀伊国屋書店渋谷店、リブロ吉祥寺店、紀伊国屋書店吉祥寺東急店、オリオン書房ノルテ店、オリオン書房ルミネ店、丸善多摩センター店、くまざわ書店桜ケ丘店、有隣堂新百合ヶ丘エルミロード店など。
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プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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