日本の古典で何が好き、ともし聞かれたら、私がまずあげるのは『万葉集』です。次になると
『伊勢物語』かな、と思います。『古今和歌集』から『新古今和歌集』へと揺らめき流れる歌の清流に浮かび沈みひかる紅葉の舟といったイメージをもっています。
『伊勢物語』を深く読みこんできたわけではないけれど、恋愛がテーマで、短編集で、
歌物語だからでしょうか、とても親しみを感じます。この小さな物語集が、紫式部から謡曲や堀辰雄の小説まで及ぼしてきた影響の広さ深さは素晴らしいと思います。
私がはじめて触れたのは学校の教科書からで、「第四十五段」の思いを遂げられずはかなく死んだ娘の恋と鎮魂歌の掌編でした。蛍に語りかける歌も、せつなくかなしく美しいと、心うたれたことを懐かしく思い出します。
今回読み返し特に好きな段に思うことを記そうと考えていたのですが、『伊勢物語』とネット検索するだけで、原文、現代語訳、解説、絵巻物がちりばめられた、愛情こもった個性的なホームページが現れてきました。なら、直接その世界にふれるのがいちばんいい、親しまれ愛されている古典なんだと改めて思いました。
中高生にとって短歌の文法解読のテストは苦痛だけれど、『伊勢物語』の短歌は、毎日どこかの町で、思い悩み心ときめかせ生みだされている、思慕する異性へのラブレター、恋文なのだから、自然に共感できる歌なんだと思います。思春期の淡い恋にとどまらず、死ぬまでやむことのない生き、愛したい、そうせずにはいられない、ひとの、おんな、おとこの、思いが美しく浮かんでいることに、年齢を問わず惹かれてしまうのだと感じます。
歌物語は詩を書く私の憧れでもあります。『伊勢物語』のような、歌物語を生みだして伝えられたらと、初恋のひとを心に抱くように私はずっと思ってきました。その面影をおうことはきっと死ぬまでやむものじゃないんだと思います。
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