これまで日本の詩歌を古代から室町時代まで、好きな和歌と歌人を焦点にしてみつめてきました。その後連歌、俳諧という詩歌が形づくられ、和歌も明治の革新期を経て現在へ変遷してきました。その推移に思うことやその時代の好きな詩歌と歌人、詩人については今後記していきいます。
1.歌謡と詩歌 その前に今回からしばらくの間、少し異なった視点のテーマをとりあげたいと思います。
「歌謡と詩歌の交わりの移り変わり」という、ずっと私の心にある主題です。
今回はテーマ全体の概観として、この主題のどこに関心があるのか、現時点での覚書を記します。
そのうえで次回以降、日本の古代に再び遡り時代の流れにそって、伝えられてきた歌謡の古典を通してこの主題を考えていきます。
具体的には、
記紀歌謡、神楽、催馬楽、梁塵秘抄(りょうじんひしょう)、閑吟集(かんぎんしゅう)、宗安小歌集(そうあん こうたしゅう)、隆達小唄、民謡、都都逸、おもろそうし、琉球歌謡などをとりあげていく予定です。
2.この主題への問題意識のメモ☆
歌謡と詩歌、歌と詩は、影響しあってきた。その
共通点と本質的な違いはどこにあるか?
☆ 現在の詩、詩歌が、歌謡・ポップスに呑まれ衰弱したとの感覚が私にあったが、ほんとうは
古代から、歌謡と 詩歌はいつも並存して棲み分け続いてきたのではないか?
☆
曲をともなった歌と、言葉の調べと文字の詩歌は、(初めから? 古代のいつからか?)分かれた後は、
別々に流れてきた。
☆
歌謡を愛するひとの人口が多く、詩歌が限られ少ないのは、いつの時代もかわらない? なぜ?
☆
歌謡をより俗歌、詩歌はより芸術だと分けようとしても、芸術も芸、文芸も芸であり、俗芸と繋がっている。その境界は時代の趣味、個人の趣味で揺れ動くものにすぎないのでは?
☆
歌謡にも、民謡、宮廷歌謡、芸謡と、生まれ歌われた場と目的に違い・幅があることを忘れないことは感じとるうえで必要な視点。
3.歌謡の、詩歌にはない魅力。(私は歌謡も好きなので、いいなと感じる点をあげてみます)。
☆
歌謡は曲が主。声の調べ・言葉の響きはあくまで曲音の一部分。
・たとえば
ラップでも響きと語呂合わせを伝えるのが主で、言葉の意味はおまけ。
・
美しいメロディー、旋律。情感につつまれ胸があつくなる。
・
強い拍動、リズム。からだの鼓動が自然に共振する。
☆
歌詞は単純で短くていい。短くわかりやすいことが大切。たとえば「愛してる」。すっとわかる言葉が良い。
・
良い歌い手は、短い単純な言葉を、波うたせふるわせ強く微かに響かせ、情感につつみ、興奮と感動を伝える。言葉は複雑でないほうが、歌う人の力量がわかる。
☆
言葉の意味はなくてもよい。言葉の意味が解らなくても、情感に浸り共感できる。
・歌の特徴の
極まるところでは、言葉も意味もいらなくなる。 ・「ルルル・・・、ラララ・・・、ああ・・・、おお・・・、ヤア・・・、ヘイ・・・」だけで興奮と感動を生める。
・
洋楽の歌詞の意味はわからなくても、好きになり口ずさんでしまう。
☆
くりかえしの重要さ。言葉もメロディー、リズムも。
・例えば、好き好き好き好き、でも気持は高まる。
・歌詞を
覚えやすい。 ・
サビを繰り返して感動の波の頂点に何回か浮かびがる。
☆
声の美しさの魅力。
・声を伸ばしふるわせぞの美しさで感情を高め哀歓につつむ。例えば、
奄美の島唄の裏返す声の透きとおる哀切な美しさ。
・
肉声の性的な魅力。女性の、男性の、声の響きそのものにある、
異性を揺り動かし感情を高め興奮を呼び起こす力。
子守唄の母性のあたたかな懐かしさの大きなちから。
☆
くだけた表現、流行の言語感覚、ダジャレや語呂合わせ、ふんだんにつかって親近感。わかりやすく面白い。
・
恋愛の憧れや夢や、性的な空想、そそのかし、をふんだんに。
・歌の
調子、リズムをととのえる声、気持を高める掛け声、振り付けに合わすための声。
・
流行の言語・英語をはさむ。
ダジャレや語呂合わせの楽しさ。
☆
録音技術の歌謡への影響は大きい。
・
歌声は文字と同じように、複製・記録され消えずに残り、伝えられるようになった。 ・民謡の地域での共有は薄まりなくなりつつあるが、
時代、地域や国、言語圏による障壁、境界は弱まった。 ・現在は、
世代で、芸謡の共有があるのでは。
思春期に流行った歌、好きだった口ずさんだ歌は生涯忘れないもの。グループサウンズ。ポップス。フォークソング。歌謡曲。アニメソング。ハードロック。ニューミュージック。ドラマ主題歌。アイドル。(次回は私が好きだった歌を思い出すままに書き留めてみます。)
こんなことなぜ考えるのか、それは詩歌が好きだから、そしていい詩歌を生み伝えたいから、それだけです。歌謡の良さを知って共通する良さと違いを感じ知ることが、詩歌をより豊かな良い「芸」にすると、私は考えます。
今回の概観のうえで、まず
記紀歌謡から、歌謡と詩歌の交わりを見つめなおしていきます。
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