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歌謡と詩歌の交わり

 これまで日本の詩歌を古代から室町時代まで、好きな和歌と歌人を焦点にしてみつめてきました。その後連歌、俳諧という詩歌が形づくられ、和歌も明治の革新期を経て現在へ変遷してきました。その推移に思うことやその時代の好きな詩歌と歌人、詩人については今後記していきいます。 1.歌謡と詩歌 その前に今回からしばらくの間、少し異なった視点のテーマをとりあげたいと思います。 「歌謡と詩歌の交わりの移り変わり」とい...

『正徹物語』和歌の難破

 正徹(しょうてつ、1381~1459年)は、室町時代の歌人です。 出典では次のように紹介されています。禅僧で道号は清厳。多作で一万首超の詠が現存。難解な歌風は保守的な歌壇で異端視されたが、連歌師心敬などに強い影響を与えた。家集に『草根集』、紀行文に『なぐさめ草』がある。新古今集に心酔し、とくに藤原定家を讃仰して止まなかった。 平安朝末期から鎌倉時代初期に新古今和歌集の華麗な花を咲き匂わせた和歌がどのよう...

月と星、光と響き。定家の歌

 藤原定家の和歌のうち私が好きな歌を摘み取り、ここに咲かせます。 本歌取りや物語の言葉が巧みに織り込められた歌を味わうためには調べることがどうしても必要です。そのような歌を悪くは思いませんが、「好きな歌」という野原には咲いてくれないようです。野草が好きな私の好みです。  出典の『定家の歌一首』にちりばめられた数多くの歌から摘み取りました。歌が響かせてくれる主調音を聴き、「月と星」、「花」、「亡き母...

新しい詩「こころ絵ほん(さん)」を公開しました。

 ホームページの「虹・新しい詩」に、新しい詩「こころ絵ほん(さん)」を公開しました。詩「こころ絵ほん(さん) たんぽぽ道草わたぼうし」お読みいただけると、とても嬉しいです。...

藤原定家の象徴詩

 藤原定家(ふじわらのさだいえ、「ていか」。 1162~1241年)の和歌をみつめます。 彼は生涯をかけて和歌に生きました。年齢とともに歌風の変遷はありますが、三十一文字で言葉による虚構の世界を構築しようとした姿勢は一貫しています。新古今和歌集の撰者の一人として、象徴詩と言える領域を先頭で切り拓きました。 でも、本歌取りを多用し、『源氏物語』などの情景や言葉を織り込み違う姿で生き返らせる手法と極められた技術...

源実朝の海と純真のうた

 鎌倉時代の歌人、源実朝の歌のうち、私が好きな十八首をここに咲かせます。源実朝(みなもとのさねとも・1192~1219・薨年二十八歳)の私家集は『金槐(きんかい)和歌集』(『鎌倉右大臣家集』)のみですが、藤原定家に歌の教えを仰ぎ、秀歌を論じた『近代秀歌』や、万葉集を贈呈されています。  実朝の歌集に感じることは、古歌をとてもよく読みこんでいて、本歌取りで歌の姿を変え言葉として生き返らせていることです。万葉...

詩歌の優劣。ルクレティウス『事物の本性について』(3)

ルクレティウスの『事物の本性について―宇宙論』に照らして詩を考えてきました。今回はそのまとめです。 ルクレティウスの『事物の本性について―宇宙論』のような、古代からの西洋の文学伝統に屹立する作品と見比べると、日本の詩歌はとても狭い世界のなかで、思想のかけらもない感情を歌っただけだ、と否定的に捉える見方もあります。たしかに抒情か叙景の短い詩である和歌を本流とする日本詩歌の文学伝統と、ルクレティウスの作...

詩と真実。ルクレティウス『事物の本性について』(2)

 ルクレティウスの『事物の本性について―宇宙論』から、詩を考える試みの2回目です。今回は、思想と信仰と詩について思うことを記します。ルクレティウスはこの本で、真理と確信する思想を読者に教えるために、その思想の根本概念で事物を捉え描きなおし説明します。だからこの本は、宇宙を理性で解読して原子論の正しさを証明しようとする論文ともいえます。そのことは、たとえば彼の恋愛の捉え方に顕著に現われています。恋愛を...

詩人・吉川千穂さんの詩集『烈風』の詩「ミュンヘン / 新世界」を紹介します

ホームページの「好きな詩・伝えたい花」で、詩人・吉川千穂さんの第2詩集『烈風』収録の詩「ミュンヘン / 新世界 」を、第1詩集『再生』の詩「海」に続け、紹介しました。 詩集『烈風』は、書かずにはいられない思いから生まれ、詩集全体がひとつの作品、問いかけとなって心に迫ってきます。そして詩は感動だという、根源の思いを呼び醒ましてくれます。 生きることも創作も、痛みを感じ尽くし潜り抜け、それでも、そのむこうに...

宇宙を歌う。ルクレティウス『事物の本性について』(1)

 ルクレティウスの『事物の本性について―宇宙論』は、原子論を全六巻にわたる詩句で織りあげた稀有の長詩として、世界文学と思想史に独自の光を放ち輝いています。私はこのような類例のない作品を書きあげたルクレティウスに尊敬の念を覚えます。 この作品を読むことで惹き起こされた詩についての考えを、3回に分けて記します。 ルクレティウスは、この本を詩句のリズムにのせて書き上げた理由を第四巻の冒頭で、「快くひびく歌...

式子内親王、言魂の韻律美

 式子内親王の美しく愛(かな)しい、私が好きな歌をここに咲かせます。彼女の思いのどうしようもない切実さは言魂となって心を打ちます。余計な説明はいらない歌なので、耳を澄ませ惹かれるままに、その韻律の美しさを☆印の後に記しました。(カッコ内数字は出典の通し番号と勅撰入首歌番号です)。式子内親王の歌は、心の感性で選びつつ紡がれた言葉の響きに、意味と表象と音象が渾然と自然に融け、美しい調べを今も奏でています...

式子内親王、うた魂の響き

 式子内親王(しょくしないしんのう、「しきし」「のりこ」とも。)は、新古今集を代表する女性歌人です。 彼女の歌の世界にはじめて入り込もうとした二十代の頃、私には彼女の歌の良さがまだ分かりませんでした。彼女が亡くなったのと同じくらいの年齢となった今、彼女の歌はとても心に響き、心の重なりを深く感じとれるようになりました、嬉しいことです。 式子内親王の生涯に華やかさはなく、不遇だといえます。後白河天皇の...

歌の韻律美と口語自由詩

 萩原朔太郎の『恋愛名歌集』を通して、日本語の歌の韻律美を知り、より深く聴きとろうと、4回にわたり試みました。初回冒頭に書いたとおり、私は日本語で表現する詩人の一人として、その美しい韻律を作品で響かせたいといつも思っています。考察のまとめとして、「短歌の韻律美を口語自由詩にどのように生かせるか」を私なりに考えます。● 日本語の歌の魅力 まず、各回でみつけた日本語の歌の魅力は次のように、豊かなものでし...

詩の容姿

詩を好きなほとんどの方と同じように、私は本好きです。手ざわり、ページをめくる時、ひらひら木の葉のように風にささめく瞬間の流れに身を置くのがとても好きです。 小説などの文学書、特に詩は、紙のうえを遠足している活字たちの姿も好きです。 小学生があいうえおの文字の容姿を楽しく心に焼きつけるのと同じほど、特にひらがなの丸みをおびた童顔とやわらかな体つきが好きです。だから、伝えられてきた、和歌や絵巻物のさらさ...

HPの詩作品を縦書きに

ホームページ公開中の詩作品を、縦書き表示でお読み頂けますように、全面改定しました。詩集を手にとるような気持ちで、ご覧くださると嬉しく思います。縦書きと詩のかたちについては、別に「詩に思う」に近日中に記します。(ブラウザにより横書きのままのパソコンもあります、現時点ではお許しください。)...

音律構成の織物『恋愛名歌集』(四)萩原朔太郎

 萩原朔太郎の『恋愛名歌集』を通して、日本語の歌の韻律美をより深く聴きとる試みの4回目です。最終の今回はその韻律美を、短歌は総合的な音律構成の織物になっている、という視点で考えます。 朔太郎は、日本語の歌の韻律の特色を「柔軟自由の韻律」であることに、「母音、子音の不規則な―と言うよりも非機械的な配列から、頭韻や脚韻やの自由押韻を構成して、特殊な美しい音律を調べる」ことに、見出しました。 その発見のう...

詩人・中村不二夫さんの詩「やさしい手 / K病院救急病棟 / 青春譜」を紹介します

 ホームページの「好きな詩・伝えたい花」で、詩人・中村不二夫さんの詩「やさしい手 / K病院救急病棟 / 青春譜」を紹介しました。 中村さんは詩人として著名な方ですが、青年です。詩を愛する者どうし、青年としていつも対話してくださいます。 文学の表現の中心には必ず生命があり人間がいます。そして詩は人間の心にこそ生滅する芸術です。中村さんの詩に響く、何より大切な愛と祈りと鎮魂、やさしい手を知りつつ強く傲慢な...

Appendix

プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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