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ルソー『エミール』(三)わからなくなればなるほど、わたしは。

 ジャン・ジャック・ルソー(1712年~1778年)の主著のひとつ『エミール または教育について』(1760年)の第四篇にある「サヴォワの助任司祭の信仰告白」を、読み感じとり考えています。 「サヴォワの助任司祭の信仰告白」の流れの中から、ルソー自身の宇宙観、世界観、社会観、宗教観が奔流のように流れ私の魂を特に揺さぶり、想い、考えずにはいられないと感じる、主題が述べられた言葉を引用し、私がなぜ共感したのか、どの言...

ルソー『エミール』(二)。なぜ宇宙が。

 ジャン・ジャック・ルソー(1712年~1778年)の主著のひとつ『エミール または教育について』(1760年)の第四篇にある「サヴォワの助任司祭の信仰告白」を、全11回にわたり読みとり考えています。 「サヴォワの助任司祭の信仰告白」の流れの中から、ルソー自身の宇宙観、世界観、社会観、宗教観が奔流のように流れ私の魂を特に揺さぶり、想い、考えずにはいられないと感じる、主題が述べられた言葉を引用し、私がなぜ共感したの...

ルソー『エミール』(一)。眼差し、人間をまっすぐに。

 ジャン・ジャック・ルソー(1712年~1778年)の主著のひとつ『エミール または教育について』(1760年)の第四篇にある「サヴォワの助任司祭の信仰告白」を、今回から全11回にわたり、読みとり考えていきます。 『エミール』は子どもの誕生から成人するまでの教育を主題とした全五篇まであるとても豊かな著作です。 わたしは青春期にこの著作を読み、たとえば第五篇の「女性は走るようには生まれついていない。女性が逃げるとき...

オウィディウス『変身物語』(十一)。野蛮な戦争から、平和的な技芸に。

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 最終回も前回に続き、ピュタゴラスを通して述べられたオウィディウスの死生観です。 ここには、ピュタゴ...

オウィディウス『変身物語』(十)。ピュタゴラス、殺すことによって生きてゆくとは。

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回と最終回はピュタゴラスを通して述べられたオウィディウスの死生観です。 ピュタゴラスを、最初の菜...

オウィディウス『変身物語』(九)。オルペウスの死

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回は、楽人であり詩人であるオルペウスの死です。 私は文学が好きになり詩を書き始めた頃からずっと、オ...

オウィディウス『変身物語』(八)。悲しい吠え声を

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 二回に分けて、トロイア戦争の敗戦国の王妃ヘカベと、娘のポリュクセナ、息子のポリュドロスの悲劇をみつ...

オウィディウス『変身物語』(七)。女のおまえさえも

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 二回に分けて、トロイア戦争の敗戦国の王妃ヘカベと、娘のポリュクセナ、息子のポリュドロスの悲劇をみつ...

オウィディウス『変身物語』(六)。悲しみの糸杉

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回はキュパリッソスの嘆きです。 短い挿話にもかかわらず、鹿と美少年キュパリッソスの糸杉への変身の...

オウィディウス『変身物語』(五)。みずからの涙で溶け去って。

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。 「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回は「カウノスとビュブリス」の涙の瞬きです。 妹として生まれたビュブリスは、兄のカウノスと親し...

オウィディウス『変身物語』(四)。変身、変容、生まれ変わり。

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。 「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回は「メレアグロスの姉妹たち」の悲痛な瞬きです。 メレアグロスは諍いで叔父を殺害します。メレア...

オウィディウス『変身物語』(三)。純愛と死の物語

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。 輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回はピュラモスとティスベの純愛の瞬きです。 オウィディウスの『変身物語』のこの一節は、シェイク...

オウィディウス『変身物語』(二)。愛の悲しみのエコー

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し、好きになりました。 「変身」というモチーフで貫かれた、ギリシア・ローマ神話の集大成、神話の星たちが織りなす天の川のようです。 輝いている美しい星、わたしの好きな神話を見つめ、わたしの詩想を記していきます。 今回はナルキッソスとエコーの切ない瞬きです。 ナルキッソス、ギリシア読みではナルシス、自己愛の...

オウィディウス『変身物語』(一)。作品は完成した。

 ローマの詩人オウィディウス(紀元前43年~紀元17か18年)の長編詩『変身物語』に私は二十代の頃とても感動し好きになりました。 今回からの数回は、この作品を読み返して、とりあげてみたいと感じた箇所を紹介しつつ、私の詩想を記していきます。  初めに訳者・中村善也の解説にある、この著作と、書かれた状況を要約します。 オウィディウスは紀元8年、50歳過ぎに、アウグストゥス皇帝によってローマを追われ、黒海西岸の...

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』(六)。ひとつの永遠の灼熱する生(いのち)

 敬愛するドイツの詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめています。 私は二十代で彼の作品にとても感動し、その変わらぬ想いを深め伝えたいとこの文章を書いています。 作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、呼び覚まされた私の詩想を記してきました。 最終回の主題は、生(いのち)です。 ヘルダーリンは『ヒュペーリオン』の最後に、彼の死生...

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』(五)。何千年も星の世界を。

 敬愛するドイツの詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめています。 私は二十代で彼の作品にとても感動し、その変わらぬ想いを深め伝えたいとこの文章を書いています。 作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、呼び覚まされた私の詩想を記しています。 今回の主題は、絶望です。 祖国の自由独立を願い戦闘に加わった主人公ヒュペーリオンは、戦争...

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』(四)。暴力に訴えて。

 敬愛するドイツの詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめています。 私は二十代で彼の作品にとても感動し、その変わらぬ想いを深め伝えたいとこの文章を書いています。 作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、呼び覚まされた私の詩想を記しています。 今回の主題は、暴力です。 主人公の男性ヒュペーリオンは、友からの誘いに応じます。トルコの...

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』(三)。いまはじめて世界を。

 敬愛するドイツの詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめています。 私は二十代で彼の作品にとても感動し、その変わらぬ想いを深め伝えたいとこの文章を書いています。 作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、呼び覚まされた私の詩想を記しています。 今回の主題は、愛です。  愛の告白は、心を打ち心に響きます。なぜでしょうか? ひとりの人...

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』(二)運命の出会い

 敬愛するドイツの詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめています。 私は二十代で彼の作品にとても感動し、その変わらぬ想いを深め伝えたいとこの文章を書いています。 今回からは、作品の大きな流れのまとまりからテーマを掬い上げ、作品の言葉の飛沫のきらめきと、呼び覚まされた私の詩想を記していきます。 今回の主題は、運命的な出会いです。 「ぼく」は、主人公の男性の名はヒュペー...

ヘルダーリン『ヒュペーリオン』(一)。その名は美だ。

 今回から数回、ドイツの詩人ヘルダーリン(1770年~1843年)の長編作品『ヒュペーリオン』を見つめます。シラーやゲーテより若い世代で、フランス革命、ナポレオン独裁の時代が青春期でした。ノヴァーリスとも会っています。彼の詩と『ヒュペーリオン』の価値をシラーやゲーテは十分には評価せず、二十世紀にようやく再評価された詩人です。 私は二十代で彼の作品を知り、とても感動しました。彼の詩については、次のエッセイで...

ユゴーの詩。一人のいのちを感じる眼。レ・ミゼラブル。

 久しぶりに映画をゆっくり観ました。ミュージカル映画の『レ・ミゼラブル』です。ユマニスム、ヒューマニズム、人間をみつめるまなざしからあふれだす詩心と感動の物語に、とても心打たれます。原作者のユゴーは19世紀フランスの文豪ですが、あらためて底力のある詩人、作家だと感じました。 まず今回は『レ・ミゼラブル』と共鳴していると感じるユゴーの詩を一篇見つめます。 私はこの詩に、ユゴーが人間と生活と社会と世界を...

愛の霊感を授けられ。ダンテ『神曲』

 ダンテの『神曲』について「地獄篇」を中心にこれまで書きましたが、まとめとして今回は「浄罪篇」と「天堂篇」を見つめます。 ダンテは、「地獄篇」で地球の地下深い地獄へ下る旅を終えた後、「浄罪篇」ではエルサレムの地球の反対側にそびえる浄罪山を登り頂上の地上楽園(アダムとエヴァの原罪の地)に辿り着き、最愛の女性ベアトリーチェと再会します。そして二人、月天、水星天、金星天、太陽天、火星天、木星天、土星天、...

泥水に咲く詩歌の花

 今回は、ダンテの『神曲』を詩歌作品として読みとりながら私が考えたことを短く記します。 数回のエッセイのなかで私は『神曲』に教えられるところ、素晴らしいと感じるところだけを述べ、またダンテを詩人として敬愛すると書きました。 バランスをとるために付け加えると、私はダンテを聖人とも現世での崇拝すべき人とも思っていません。彼は政治的な闘争にまみれた人物だったし、党派抗争のリーダー格で戦闘にも加わっていて...

ダンテ『神曲』愛。3による表現技法。

 ダンテの壮大な『神曲』全体に照応している縮図のようなひとつの歌(カント)、3行3連、9行に凝縮されている抒情の凄みを見つめます。 出典の『イタリアの詩歌―音楽的な詩、詩的な音楽』の「第3章イタリアの詩形」で、天野恵氏は、地獄篇第5歌が「愛欲の獄」としてひろく知られ、ロダンの彫刻《接吻》、《地獄門》、《考える人》の種となったことを興味深く教えてくれます。(ロダンのこれらの作品の写真はウィキペディアで見る...

ダンテの詩宇宙『神曲』

 『イタリアの詩歌―音楽的な詩、詩的な音楽』の天野恵氏による「第3章イタリアの詩形」を通して、詩を見つめています。 ペトラルカの美しい抒情詩を聴き取りましたが、今回と次回は、壮大な叙事詩、ダンテの『神曲』について、その詩形という観点で考えてみます。 典型的な抒情詩人であり私が好きなポオは詩論で、「詩が詩であるのは、魂を高揚して激しく興奮させる限りであり、詩的興奮は束の間のもの。だから長編詩は実際は短...

詩が好き。書き手と読み手を結ぶ。

 今回は『イタリアの詩歌―音楽的な詩、詩的な音楽』の天野恵氏による「第3章イタリアの詩形」のまとめの言葉から、共感する言葉を拾い上げつつ思うことを記します。 前回、芸術の創作の根底には、伝統を踏まえた個性による創造力が必ずあることを記しました。現在の日本の言葉の芸術をみつめると次のような傾向があるように私は思います。1.短歌の創作。古来からの伝統にもとづく歌のかたちが出来上がっているので、形式におい...

ペトラルカ。抒情詩の創造

 今回は『イタリアの詩歌―音楽的な詩、詩的な音楽』から、ペトラルカの『カンツォニエーレ』126番の最初の詩節と、結びの詩節の抜粋を引用します。全68行の定型詩カンツォーネの標準形です。 愛する女性への思慕の情が清流のように流れきらめいていて、せせらぎのように美しい抒情詩だと感じます。 700年近い時を流れてきた水を手にすくい口に含めることをとても嬉しく思います。 もうひとつ、著者・天野氏の定型詩カンツォー...

ペトラルカの詩法(一)。字余りと字足らず。

 私にとって、イタリア詩は、その源流のラテン語詩、オイディウスの『変身物語』以降は空白地帯でした。 西欧の詩歌とその詩法を見つめなおそうと思い見つけて読むことができた出典の『イタリアの詩歌―音楽的な詩、詩的な音楽』はとても教えられることの多い発見に満ちた心を豊かに揺らしてくれる本でした。今回と次回はそのなかから、ペトラルカのカンツォーネを見つめます。 まず、ドイツ詩を見つめた際にも記しましたが、詩...

ダンテが100円。文学と経済価値

 個人的な身辺事情で、ブログの公開ペースが鈍り文筆家として悲しく恥ずかしく思っています。 そのことと直接結びつきませんが、二十歳代からずっと読もうと思いながら二十数年読めずにいた、ダンテの『新生』と『神曲』を、読み終えてから彼の著作について書きたいという思いも重なっています。なぜなら、少なくともダンテは『神曲』を彼の命をかけて、全生涯をかけて書いていること、そのような彼の生きざまを私は心から尊敬し...

詩を聴きとり、創作すること。フランス詩法。

 杉山正樹著『やさしいフランス詩法』を読んで感じ考えたことに、少し付け加えたくなったことを書きます。 まず、「La mer 海、フランスの好きな詩」に中原中也訳で以前咲かせたランボーの詩「永遠」の好きな一節を見つけて懐かしく嬉しく感じたので、引用します。Elle est retrouvée.Quoi? -L'Éternité.C'est la mer alléeavec le soleil.[ɛ-lɛ Rǝ-tRu-ve ][kwa le-tɛR-ni-te...

Appendix

プロフィール

高畑耕治

Author:高畑耕治
Profile:たかばたけ こうじ
1963年生まれ大阪・四條畷出身 早大中退 東京・多摩在住

詩集
「純心花」
2022年イーフェニックス
「銀河、ふりしきる」
2016年イーフェニックス
「こころうた こころ絵ほん」2012年イーフェニックス
「さようなら」1995年土曜美術社出版販売・21世紀詩人叢書25
「愛のうたの絵ほん」1994年土曜美術社出版販売
「愛(かな)」1993年土曜美術社出版販売
「海にゆれる」1991年土曜美術社
「死と生の交わり」1988年批評社

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